2002-11-20 ノーベル賞、化学賞の陰にもう一人の日本人、宇宙研の山下氏

 2002年のノーベル賞に「第3の日本人」がいた。化学賞受賞者の一人、米バージニア・コモンウエルズ大教授のジョン・フェン博士(85)に師事した山下雅道・文部科学省宇宙科学研究所教授(54)だ。山下さんら2人は、84年、分子を壊さずにイオン化させ、質量分析に使う新手法を確立。その技術を発展させたフェン博士の業績が、今回の受賞対 象となった。フェン博士は「彼がいなければ受賞はなかった」として、12月10日にストックホルムで開かれる授賞式に山下さんを招待する。

 山下さんは東大宇宙航空研究所(宇宙研の前身)に在籍していた77年、来日したフェン博士(当時エール大教授)と知り合った。80年には山下さんがエール大に留学し、共同研究を始めた。

 液体に高電圧をかけると、表面張力が壊れて分子サイズにまでちぎれ、イオン化したしずくが四方八方に飛び散る。この「エレクトロスプレー」現象を質量分析に使えないかというアイデアをフェン博士が出し、山下さんがその手法の開発に取り組んだ。

 フェン博士は退官が近く、研究費も十分ではなかったが、山下さんが学内のガラクタをかき集めて装置の試作を重ねた。約3年間で質量分析の手法を確立し、「ヤマシタ・フェン」の論文として84年に発表した。

 山下さんは帰国後、宇宙生物科学に転向。94年には、向井千秋さんがスペースシャトルに持ち込んだ「宇宙イモリ」の実験も指揮した。一方、フェン博士は、84年当時は不可能だったたんぱく質の質量分析に応用しようと試み、88年に実現させた。この問題をレーザーで解決したのが田中耕一・島津製作所フェロー(43)らのチームで、フェン博士とノーベル賞を分け合うことになった。

 「何かを一から作り出すという作業を、この時ほど楽しんだことはない。そうやって出した成果が、フェン先生の受賞に貢献できたのは大変な喜び」と、山下さんはうれしそうだ。

 日本質量分析学会会長の交久瀬(かたくせ)五雄・大阪大大学院理学研究科教授(物理学)は、「山下さんのエレクトロスプレー法と、田中さんのソフトレーザー法は、たんぱく質質量分析の東西両横綱といってもいい。ノーベル賞はフェ ンさんが受賞するが、それを支えたのは山下さんだと、誰もが思っています」と話している。(毎日新聞)