2016-11-29 次の戦場は宇宙、米軍が準備加速 衛星に迫る中ロの脅威

ワシントン(CNN) 宇宙は人類が初めて進出して以来、これまでおおむね平和な環境が保たれてきた。しかし各国が大気圏を越えて兵器を展開させるようになった今、米軍も宇宙戦争を視野に入れた戦闘準備に乗り出している。
「人類が行く所には常に衝突があった」。米戦略軍のジョン・ハイテン司令官はそう振り返る。「つまり人類が物理的に進出するたびに衝突は起きる。我々はそれに備えなければならない」。
現在の米国はほかのどの国よりも宇宙に依存している。敵対する勢力によって人工衛星が無効化もしくは破壊されてしまえばテレビは映らず、携帯電話網は機能せず、インターネットも速度が低下していずれ停止する。株式市場や信号、鉄道、航空機、さらには核攻撃の早期警戒システムもGPS衛星に依存する。

宇宙空間でも米国の主な仮想敵国はロシアと中国。シリアからウクライナ、南シナ海、サイバー空間に至るまで、地上の争いは既に大気圏を越えて拡大しつつある。
中国とロシアは宇宙空間で米国に対抗するための最新鋭兵器を配備してきた。ロシアは米国の衛星にひそかに接近する「コスモス2499」など複数の衛星を展開。これらはカミカゼ衛星と呼ばれ、命令を受ければ米国の衛星に体当たりしてこれを無効化もしくは破壊する。中国は米国の衛星をつかんで軌道の外に出すためのアームを搭載した衛星「試験」を打ち上げた。
「米軍がそうした現実に基づいて戦時態勢を取っていないとすれば衝撃的だ」。民間衛星調査企業AGIの経営者ポール・グラジアニ氏はそう解説する。

地球から約160キロ上空にある国際宇宙ステーション(ISS)の軌道から、GPS衛星がある約2万キロの軌道、そして軍の通信や核攻撃の早期警戒警報を担う米国家安全保障上最も重要な衛星のある3万5400キロの軌道。そのいずれの軌道でも、近いうちに敵国が米国の衛星を脅かすようになるとハイテン氏は予想する。
そうした事態に備えて新設された米宇宙軍は人員数3万8000人、年間予算は89億ドル(約9970億円)、世界各国に134の拠点を持つ。
このうち第50宇宙航空団では8000人が米国と外国の軍事衛星を監視する。今のところ任務は監視に限られ、宇宙空間で反撃する能力はない。
「宇宙空間に衝突が拡大した場合の作戦準備」が整っていないとして2015年に重大な懸念を示したロバート・ワーク国防副長官は、今年4月、もし宇宙空間で攻撃を受ければ反撃に出て、相手を撃退すると宣言した。

「我が国の宇宙配備を狙う者があれば、我々はそれを阻止できる能力を追求する」「魚雷を撃墜できる能力を備えておくことが望ましい」。そう語るワーク氏が想定するのは、第2次世界大戦中に米海軍が海中に投下して攻撃型潜水艦を爆破した水中爆雷の宇宙版だ。
「衛星が建造され、打ち上げられた15年前、宇宙空間は無害で脅威は存在しなかった」。そう解説するのは米軍高官のデービッド・バック氏。「それが現在は我が国の衛星は危険にさらされ、地上のインフラが危険にさらされている。我々はその防衛に力を入れている」
そうした兵器はまだコンセプト段階だが、いずれ宇宙空間での防衛や攻撃に利用することを想定した先端兵器の開発も進む。米軍が初めて運用するレーザー兵器「LAW」は海軍艦「USSポンス」に搭載されてペルシャ湾に配備。無人宇宙ドローン「X37b」は既に数回の宇宙飛行を実現している。
それでもロシアと中国の急展開を前に、初めて宇宙が舞台となる次の戦争では米国が敗北するかもしれないと予想する専門家や軍高官もいる。米宇宙軍のウィリアム・シェルトン元司令官は、「我が国の衛星を積極的に防衛できるのかと言われれば、ノーと答えるしかない」と語った。