2016-12-2 宇宙開発は国家からベンチャーの時代へ 高まる注目

国家的プロジェクトが主体だった宇宙ビジネスの現場で、ベンチャー企業が存在感を高めている。ANAホールディングス(HD)とエイチ・アイ・エスは1日、純民間宇宙機を開発する名古屋市港区のベンチャー企業への出資を発表。ベンチャー企業にとって資金調達は経営を安定させる最重要課題のひとつで大きな注目を集めている。米国で先行する宇宙ベンチャーの事業は、日本でも花開くか。

ANAとHISがベンチャーに出資

 ANAホールディングス(HD)とエイチ・アイ・エスは1日、宇宙旅行をはじめとする民間主導の宇宙輸送の事業化に向け、PDエアロスペース(名古屋市緑区、緒川修治社長、052・621・6996)に出資したと発表した。2023年12月の商業運航開始に向け、ANAは旅客機運航の知見を生かした宇宙機のオペレーション、エイチ・アイ・エスは宇宙旅行の販売などで連携する。

 PDエアロスペースは低コストで利便性の高い宇宙機の運航を目指している。すでに単一のエンジンで宇宙に到達するのに必要なジェットエンジンとロケットエンジンを切り替えられる次世代エンジンを開発している。

 今回、第三者割当増資を実施し、資本金を1000万円から6040万円に引き上げた。出資比率と出資額はエイチ・アイ・エスが10・3%で3000万円、ANAが7%で、2040万円。

 澤田秀雄エイチ・アイ・エス社長は「資金力をつけて開発の速度を上げた方がいい」と出資の意図を説明。緒川PDエアロスペース社長は「商業運航開始までに約170億円の資金が必要。今後も出資者を募る」とした。片野坂真哉ANAHD社長は「技術的な応援の必要があれば検討する」と述べた。

ロボット月面探査レースの「ハクト」、来年打ち上げへ

KDDIとispace(東京都港区)は8月29日、米グーグル主催のロボット月面探査レースに参戦するフライトモデルを公開した。重量を約4キログラムまで抑制した4輪ローバー(写真)で、KDDIは通信技術を支援した。
  ローバーは2本の通信用アンテナを搭載。短距離で高速な2・4ギガヘルツの電波(ギガは10億)と、長距離に届く900メガヘルツの電波(メガは100万)に対応しており、途切れにくくした。2017年1月までに実機を製造し、17年内に月面に打ち上げる。
  同レースは月面にロボット探査機を着陸させて走行させ、画像を地球に送る競技。KDDIは、ispaceが運営する日本チーム「HAKUTO(ハクト)」の通信技術を支援している。
  月面への打ち上げには1キログラム当たり約1億2000万円かかる。このためモデルには炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの軽量素材を採用。従来の試作品の約7キログラムから大幅に軽量化し、月への打ち上げ費用の抑制にも成功した。宇宙空間での振動や熱、放射線などに耐える性能も備えた。

JALやスズキも「ハクト」を支援

 日本航空(JAL)はispace(東京都港区)とコーポレートパートナー契約を締結し、同社が運営する民間月面探査チーム「HAKUTO(ハクト)」を支援する。ispaceは、米グーグルがスポンサーとなっている国際宇宙開発レース「Google Lunar XPRIZE」に参加しており、月面探査機「ローバー=写真」を開発している。JALは航空機の整備技術を提供するなど、ハクトを支援し、世界初の民間による月面探査を目指す。

 スズキは7月5日、米グーグル主催のロボット月面探査レースに参戦する日本チーム「HAKUTO」に技術支援すると発表した。パウダー状の砂で覆われた月面をスリップせずに走破する技術や軽量化技術を提供する。ブランドイメージや技術者の士気向上が狙い。

東大発ベンチャー 超小型衛星を来年3基打ち上げへ

アクセルスペース(東京都千代田区、中村友哉CEO、03・5577・4495)は2015年12月10日、2017年に参入する超小型衛星「グルース」による地球観測画像データ事業「アクセルグローブ」に関する事業戦略を発表した。
  グルースが撮影した地表の画像をもとに顧客企業などにデータを分析、提供する。例えば、農業生産者が農作物収穫高の算出に生かしたり、インフラ事業者がプラントを遠隔監視したりする用途を想定している。17年にグルース3台を打ち上げる。

 22年には、グルース50台で地球上の全陸地の約45%を毎日撮影できる体制作りを目指す。「この45%に人間が経済活動する全ての領域が集まる。地球上の全産業がサービス対象になる」と中村CEOは強調する。

経団連もアクセルスペースを支援

東京大学と経団連は11月16日、革新的な産業創出を担うベンチャー(VB)を育てる「東大・経団連ベンチャー協創会議」を発足させたと発表した。VBを即、大企業の事業に活用するのではなく、VBを大きく育てていくことで、日本の革新領域の構築につなげることを目指す。
  まず宇宙ビジネスのVB「アクセルスペース」支援などプロジェクト数件を始める。東大は大企業連携で活用する2号ファンドを、2017年に100億円超で設立する。

 東大・経団連ベンチャー協創会議はVBの成長を通じて日本の産業構造の転換を起こすことを狙う。そのため東大や経団連の加盟企業が持つ技術や人材、設備、VBに関する知見、ネットワークなどをVBの事業拡大に生かしていく。

 プロジェクトの一例は、超小型衛星を扱う東大発ベンチャー、アクセルスペースの収集データを、多様な産業での活用に広げる宇宙ビジネスだ。すでに東大とKDDIを核にした複数社のコンソーシアム型の活動があり、ここから事業強化を図っていく。(日刊工業)

(編集者コメント:宇宙の商業化、ビジネス起業はそう簡単ではないはず。リーダの強い信念と確固たる夢、リスクへの覚悟、実現に向けた膨大な資金的バックと投資家の支援、卓越したマネージメント、天才的営業責任者、といった存在が欠かせない。日本のぽっと出の宇宙ベンチャー論議って、空騒ぎに見えてしょうがない。一体この現象をどう理解したらいいのだろうか。)