2016-12-23 イプシロン 宇宙ビジネスの牽引役に

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型ロケット「イプシロン」2号機が、鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所を飛び立ち、搭載した科学衛星を予定の軌道に投入した。

 イプシロンは小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げたM5ロケットの後継機で、2013年9月に初号機が打ち上げられた。3年3カ月ぶりの打ち上げ成功を、まずは評価したい。

 主力ロケットの「H2A」と増強型の「H2B」が大型衛星などの打ち上げを担うのに対し、イプシロンは小型衛星用である。通信や地球観測などの分野で小型衛星の打ち上げ需要の増加が見込まれるとして、M5の廃止(06年)で途絶えていた固体燃料を使う小型ロケットを復活させたのだ。

 低コストと効率化を追求したイプシロンは、ロケット本体に人工知能を搭載し、多くの人員と時間が必要とされる機体点検を自動化した。パソコンを使って数人で打ち上げ作業を管理できる「モバイル管制」も実現し、発射台での組み立て期間も従来の6分の1の約1週間に短縮した。

 日本のロケットはコストと打ち上げ実績で、米露欧に後れをとってきたが、イプシロンの画期的な打ち上げシステムは、衛星打ち上げの国際市場で「勝ち組」に転じるための切り札にもなり得る。

 課題は打ち上げ実績である。技術が高く評価されても成功回数が少ないと信頼度は高まらない。打ち上げ能力を初号機から3割向上させたとはいえ、2号機の打ち上げまでに3年もかかったのは、間延びした印象が否めない。

 来年度以降は地球観測衛星(17年度)や日本初の月面着陸機「スリム」(19年度)など、年に1機程度の打ち上げとなる見通しだが、官需依存から早期に脱却し民需、外需をイプシロン運用の柱とすることが望まれる。

 11月には、国際的な宇宙ビジネスの拡大を目指す「宇宙活動法」が成立した。イプシロンは日本の宇宙産業の牽引(けんいん)役となるべきロケットである。

 「良い製品を作れば、売れるだろう」という受け身の姿勢で、国際競争に敗れた例はいくらでもある。その轍(てつ)を踏まないために官民を挙げて需要を創出し、日本の宇宙技術が世界の需要を確実に捉えていく戦略を、打ち立てる必要がある。

(編集者コメント:このクラスのロケット開発は世界的潮流は民間主導である。さもなくば、世界の打ち上げ需要を確保することは難しいだろう。官民共同でコストダウンは不可能である。ただ、IHIに自主開発のリスクを負えないことが問題だ。)