2016-06-07 なぜ成功した起業家は宇宙を目指すのか?

かつて宇宙開発は、政府が国の威信を懸ける国家の一大プロジェクトだった。だが富豪起業家の相次ぐ参入により、新たな局面を迎えようとしている。技術でも発想の面でも格段の進歩を遂げた宇宙競争から目を離してはいけない。

人類の宇宙史に、新たな一歩が刻まれた瞬間だった。今年の1月、米宇宙開発企業「ブルーオリジン」が、自社開発のロケット「ニュー・シェパード」を準軌道飛行させたのち、垂直に着陸させることに成功したのだ。同社は、昨年の11月にも低高度ながら、ロケットを打ち上げて無事に着陸させている。だが、今度はより高高度での成功ということもあり、大きな注目を集めた。

ブルーオリジンは、オンライン小売大手「アマゾン・ドットコム」のジェフ・ベゾスCEOが2000年に創業した。創業15年目の快挙とあって、さすがのベゾスも「なかなかお目にかかれないこと」と誇らしげにツイートせずにはいられなかった。すると、これにもう一人の富豪起業家が、「おめでとう。でも、準軌道と軌道では高度が違う」と、快挙を讃えながらもライバル心を覗かせた。テスラモーターズのCEOで、宇宙開発企業「スペースX」を創業したイーロン・マスクである。

じつは、スペースXも昨年末に自社ロケットの「ファルコン9」を使って11機の衛星を打ち上げた後、地上に着陸させている。

地球を離れたロケットが宇宙を周遊し、再び地上に着地する-。SF映画などでこうしたシーンを見たことがあるはずだ。これが現実になろうとしている。

近年、冒頭のブルーオリジンやスペースXをはじめとした民間の宇宙開発企業がロケット開発を加速させている。打ち上げはもちろんのこと、着陸も成功させることで、「リサイクル可能な宇宙開発」が本格化しつつあるのだ。

1980年代までは、ロケットを打ち上げても、宇宙飛行士は小さなカプセルに乗って地球に戻ってくることがほとんどだった。その後、NASA(米航空宇宙局)のスペースシャトルの登場で宇宙船の再使用が可能となったものの、耐熱タイルの検査など整備にかかる負荷が大きすぎたため、実質的にはコスト削減につながることはなかった。

だからこそ、次代の宇宙開発競争のカギは「リサイクル」である。各社は、打ち上げロケットや宇宙船、機材を再使用することにより、大幅なコスト削減を図ろうとしているのだ。

例えば、スペースXは「ロケットを再利用することで、現在、約6,100万ドル(約67億円)かかっている打ち上げコストを500万~700万ドル前後にまで引き下げられる」と考えている。ちなみに、ファルコン9の場合は、開発の初期段階に4,000万~5,000万ドルほど投じており、最もコストがかかっているという。

他にも、リチャード・ブランソン率いる英民間宇宙開発会社「ヴァージン・ギャラクティック」が再使用可能な宇宙船をつくっている。

また、先ごろ、国際宇宙ステーション(ISS)へ補給物資を輸送することが決まった米航空宇宙開発企業「シエラ・ネバダ・コーポレーション」もリサイクルに取り組んでいる。同社が開発したスペースシャトル型宇宙船「ドリームチェイサー」は、最低15回も宇宙飛行に使える点がウリだ。洗練されたデザインと性能により、整備にかかる負荷も軽減。そのおかげで、スペースシャトルよりもはるかに安い価格で飛ばせる。

もちろん、「リサイクル」によってコスト削減が約束されるわけではない。ロケットの移動や検査、整備、燃料補給にかかる費用は小さくない。それに、着陸時のための燃料を取っておけば、機体の積載重量は増すため、その分だけ小型衛星などの打ち上げ資材が載せられなくなる。衛星打ち上げが大きな稼ぎ口となっているだけに、儲けが減ってしまうなど、いいことばかりではない。

それでも、打ち上げコストを減らすことは、スペースXや宇宙業界全体にとって意味のあることだ。ロケットの再使用が当たり前になれば、スタートアップや他の大企業が打ち上げにかけているエネルギーや資金を、新たな研究開発に回せるようになるのだから。

■ロケットの再利用にかかる「コスト」

移動:着陸場所から打ち上げ施設まで、ロケットを移動させるには膨大なコストがかかる。スペースXは洋上の台船に垂直着陸させているが、それでも移動コストは高い。

燃料補給:スペースXによると、費用は20万ドル(約2,200万円)。ロケットには着陸用の燃料と機材を積み込む必要がある。そのコストも6,100万ドルの打ち上げ費用に含まれる。

検査:スペースシャトルを使用していた頃は、耐熱タイルを1枚ごとに検査するなど、整備に膨大な時間とコストがかけられた。いまでは、設計の面でも大幅に進歩している。

機材:任務を滞りなく終えることができたとしても、ロケットの機材に故障や破損はつきもの。修繕する際にも、多くの部品交換が必要となる。(Forbes Japan)