米国シンクタンクCSIS(Center for Strategic and International Studies)が公表した報告書によると、米政府は米国製商業衛星を中国が打上げることを許可すべきであり、そして米国打上げサービス企業のULA(United Launch Alliance)と空軍の戦略的関係を見直し、商業通信衛星への長期アクセスを確実にすべきだ、として米政府の衛星打上げ方針を修正することを主張している。
この「国家安全保障と商業宇宙部門:National Security and the Commercial Space Sector」と題する報告書では、政府保有の衛星へのアクセス、と解釈されている「宇宙へのアクセスを保証する」とする米国宇宙政策は、商業衛星まで解釈を拡大すべきだ、と提言している。
この報告書では明確な政策的提案は避けているが、大部分は国防総省、民間打上げサービスプロダイバ、そして民間衛星オペレータからの異なる意見を総花的に合成している。しかしながら、「宇宙への商業的アクセスは疑問が残る」という全体的なコンセンサスが認められた、と述べている。
米国軍事セクターはイラクやアフガン紛争では民間衛星の通信帯域に大きく依存しており、軍事部門が必要とする通信帯域の90パーセント以上は民間衛星に依存している。そしてこの傾向は今後も変わらないと考えられている。
このことから、米政府政策として、今日存在し、将来的に縮小する傾向にある商業衛星打上げ能力を最大限保証する方向に変更すべきとしている。
世界最大の民間衛星運用企業と、主な商業打上げサービスプロバイダは、ILS(International Launch Services)と欧州のアリアンスペースが市場を支配している状態に問題があるかどうかは懐疑的である。
全ての主要商業通信衛星プロバイダーは米国企業ではなく、それでもしばしば米政府もクライアントに含まれている。インテルサット、SES、ユーテルサット、テレサットなどは米政府の利用を特に抑制しているわけではないが、これらの衛星に米政府が依存し続けるのはリスクが高く、見直すべきだ、と提言している。この商業衛星へのアクセスが中断された場合を考えれば、高い依存度は米国の脆弱性にもなり得る。
インテルサット、SES、ユーテルサット等はILSとアリアンスペースが打上げ市場を独占しており、価格上昇の原因になりかねないし、どちらかの打上げが失敗しると、衛星産業全体に悪影響を与えることになると、衛星オペレータの意見を取上げている。
このことについて、ILS当局は、打上げ価格は過去20年間下がり続けており、最近上昇しているのは企業経営が維持できないレベルまで価格が下がっていたからでその反動がきている、と反論している。
CSISの分析では、ILSが使用するロシア運用のカザフスタン射場やフランスのギアナ宇宙センターは、近年では衛星の安全保障という観点では特に問題はないが、もし民間衛星に米国軍事ペイロードを搭載するとなると攻撃目標になりやすくリスクが高くなる、と述べている。商業衛星に相乗りの形で機密性の高い軍事、民事、諜報関連ペイロードを搭載するとなると、攻撃目標となり得るし、より高いセキュリティが求められる。
インテルサット責任者によると、インテルサットは米政府関係機関から相乗りペイロードをもっとも多く搭載している商業衛星オペレータだが、欧州とロシア射場にはセキュリティ問題は存在しないと述べている。
インテルサット、SES、テレサット、そしてエコスターは2009年中頃に連携を発表しており、中国のロングマーチロケットを商業衛星打上げ市場に開放すべきだと訴えている。そしてULAに対し、デルタとアトラスを、現在の軍事向け打上げ専用から商業衛星打上げにも参加するよう求めている。
CSISの報告書も同じ方向に傾いているが、米国製衛星や米国製部品を搭載した衛星の中国からの打合げ禁止政策は米国の宇宙産業の基盤を害しているし、商業打上げの売上げを下げ、米国の国家安全保障にとって注目に値する利益は何もない、としている。ULAと空軍との関係を見直し、これらのロケットシステムを商業的に競争できるように政策を見直す必要が有ると結論づけている。
(編集者コメント:かつては中国は海外の商業衛星打上げを積極的に行っていた。しかしながら、米国の衛星の機密部分を中国が盗んでいる、とのコックスレポートを発端にして、米商業衛星の取扱を商務省から国務省に変更となり、輸出制限品目になった経緯がある。その後、中国の海外商業衛星打上げサービスは停止した。その間、欧州は競争相手の米国が商業打上げサービスから撤退したことで、アリアンロケットの独壇場となった。中国が商業打上げサービスを再開することで、競争が激化する。この中で日本のH-2A商業打上げサービスはますます厳しい状態になる。
そもそも、世界の商業打上げサービス企業では、中国、ロシア、インドも含め、全ての企業は打上げ利用者向けのユーザマニュアルをインターネットで公表している。このマニュアルには、ロケットの性能を含めた利用者向け情報を公開している。このようなユーザ向け情報さえも公開していないのは、日本だけである。)