2016-03-17 宇宙観光業のガイドライン、国連機関が作成へ

国連の専門機関、国際民間航空機関(ICAO)は宇宙旅行やそれに関連した商業計画のガイドラインを定める意向だ。同分野のベンチャー事業が世界的に注目を集めることを示すこれまでで最も強力な証拠と言えよう。

 ICAOの最高政策決定グループの責任者は15日、アブダビで開かれている航空宇宙シンポジウムの演説でこの目標を掲げ、2019年という期限さえ設けた。

 オルムイワ・ベナード・アリウICAO理事会議長は同会合で、「準軌道飛行や宇宙飛行は新たな観光・輸送市場を育むだろう」とし、「それに関連した研究開発への現在の投資は非常に健全な水準で維持されている」と説明した。

 その狙いについて同氏は、19年に改正されるICAOの高度な安全性と航空航法の優先事項に「これらの新たな目標や規定を網羅すること」だと述べた。

 モントリオールに本部を置くICAOには直接的な執行権限がない。しかし、同機関の基準や指針――通常は数年がかりで作成される――は航空路線の安全性や空港の設計、航空管制手順に関する法律や他の規則の指標となる。

 ICAOはこれまでも宇宙旅行に関する会議をいくつか後援するなど、宇宙という新たな領域に足を踏み入れることに関心を示してきた。

 とはいえ、大気圏外の企業活動に国際基準を設けることには、国家的な宇宙計画、主権の問題、新興産業を主導する企業の利害の対立などへの干渉などのリスクがある。

 このため、ICAOの幹部は監督行為に関して、従来のようなコンセンサスアプローチを忠実に守るのは難しいと感じる可能性がある。ICAOは世界的な基準の5年以内の導入を想定している。

 15年にはベンチャーキャピタル(VC)企業50社前後が約20億ドルの資金を商業宇宙旅行の新興企業に投じたという推計もある。そのデータをまとめたバージニア州アレクサンドリアのコンサルティング会社、タウリ・グループのマネージングディレクター、カリッサ・クリステンセン氏は「1年前と比べるとその活動はかなり巨大になった」と話す。

クリステンセン氏はあるインタビューで、打ち上げ費用が減少して多くの新興企業の財務状況が改善するなか、主要VCから「本当に優れた事業計画を有する企業が出資を受けてきた」と述べている。

 業界団体、商業宇宙飛行連盟(CSF)の会長、エリック・ストールマー氏によると、商業宇宙プロジェクト全体としては年間約30億ドルの投資を呼び込んでいるという。

 米国でこのトレンドの先頭に立っているのは注目を集める3社――米電気自動車(EV)メーカーのテスラモーターズの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏が創設、経営するスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(通称スペースX)、米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOが保有するブルー・オリジン、英ヴァージン・グループのリチャード・ブランソン会長が率いるヴァージン・ギャラクティック――で、いずれも大富豪が出資している。

 とはいえ、新分野に進出しようとするICAOは政策や哲学の面でいくつかの厳しい問題に直面する可能性が高い。たとえば、米議会は昨年、宇宙観光業の規制に関して不干渉方針を概ね維持する商業宇宙打ち上げ競争力法案を通過させた。

 業界の擁護者は、初期の段階で規制が多過ぎると技術革新を阻害する恐れがあると何年も前から主張してきた。このため、米連邦航空局(FAA)は乗客が危険についての明確な警告を受けるような基本的な安全装置が備わっている限りは、宇宙観光業の規制に関して概ね自由放任主義の立場を取ってきた。

FAAはいかなる宇宙船の設計も承認しておらず、宇宙船の安全水準を確かめるために特定のテストを要求するということもない。14年にヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅

客機が墜落し、試験パイロットの1人が死亡した際も、FAAや米国の議員が規制強化に乗り出すことはなかった。

 宇宙プロジェクトと政府統制や国の威信とが同義であるロシア、中国やその他の国々でICAOの直近の構想がどのように受け止められるかは不透明だ。

アリウICAO理事会議長は15日、シンポジウムで「われわれが重要な変化を有意かつ実用的に管理する方法を見つけなければ、各国が求める必要条件が一致せず、技術は過剰活用されたり、逆に十分に活用されなかったりし、運営上、商業上の不透明感は増すことになる」と述べた。

 ICAOは宇宙観光業の監督の仕方を9年近く前から検討し始めた。しかし、15日の演説やアブダビで開かれた国連後援のシンポジウムに政府高官や業界トップが数多く出席したという事実は、この取り組みへの関心の高まりをよく示している。このイベントには日本や米国を含む6カ国以上の国の宇宙・航空規制当局者が参加している。

 ICAOのウェブサイトは「人類が商業的に運営されている準軌道飛行を定期的に利用する日はすぐそこに迫っている」と指摘している。また、専門家が「どのようなスキルが必要とされているか、誰がこの事業を進展させているか」を認識し始めたことも強調している。(WSJ)