2009-07-31 危険な宇宙軍事利用=平和運動家、ブルース・ギャグノンさん

 ◇ブルース・ギャグノンさん(57)

 米国は、宇宙の軍事利用を進め、次は宇宙への兵器配備と宇宙での覇権確立をもくろんでいる。決してSFではなく現実的かつ危険な問題だと知ってほしい。

 米国防総省によると、03年のイラク侵攻では当初、兵器の7割が人工衛星を用いて照準を合わせた。今日も、米国から遠隔操作された無人機が、アフガニスタンとパキスタンでミサイルを発射し、民間人が巻き添えになっている。また、オバマ政権は、ミサイル防衛(MD)で無人機による偵察システムの開発を目指している。MDの狙いは専守防衛ではなく核の先制攻撃後に報復を防ぐ役割にある。

 こうした宇宙の軍事技術は、戦争での人間的な感覚をまひさせ、新たな軍拡競争を招く。また、米国単独で負担できない支出を伴う。国防総省は、同盟国の日韓豪英に負担を移そうとしてきた。このため、どの国も教育、福祉、医療の予算を削った。MDの日米共同開発などがそうだ。

 宇宙の軍事利用による地球と宇宙での覇権確立を目指す方針は、90年代にクリントン政権が実質的に打ち出した。地球上の目標や人工衛星を破壊するレーザー兵器などが配備される可能性もある。ブッシュ前政権は、すべての宇宙技術開発は民事・軍事の区別なく行うと宣言した。日本も同じ方向性のようだ。オバマ政権になっても何も変わっていない。(毎日)

(編集者コメント:宇宙開発は過去の技術開発では解決できない問題に対処する必要が有る。逆に地上では想像しえない発想の可能性を秘めている。事実、無重力利用、地球観測、宇宙通信などは宇宙という特殊環境を頭脳にインプットすることで新しい発想から生まれた技術だ。しかしながら、その宇宙開発で解決すべき問題は常に存在しているものではないし、自動的に沸いてくるものでない。考えるのは人間だからである。人間の創造性は単純に情報の組合わせの違いだけである。その組合わせにどれだけの時間を投入できるかである。

人間の発想は、目の前に解決すべき問題が明確になって初めて創造的なアイディアが生まれてくる。お金を掛けても時間を掛けてもどんなに勉強では優秀な人間でも、簡単に新しいアイディアが自動的に生まれてくるものではない。目の前の問題解決が明確で、多方面からの知識を組み合わせて新しい解決方法を見いだし、それが新しい技術として世の中に広がるのである。

米国が軍事に膨大な予算を配分するのは、直接軍事行動の予算も含むが、それ以上に、的確な軍事作戦実行、特に無人による紛争解決に向けた技術開発に膨大な予算を使っている。そこから生まれる技術のレベルと量の多さはすさまじいものである。その技術が民間に移譲され、インターネットを初めとする多くの革新的技術が米国から出てくるのである。

  一方、日本から革新的技術が生まれてこない背景には、解決すべき問題、つまり「発明の母」と呼ばれる必要条件設定が極めて少ないのである。多くの解決すべき問題は、すでに市場にある海外の技術より一歩進むことに全力が注がれるのである。いわゆる「キャッチアップ」、「追いかけ」、「真似」と揶揄される所以である。これは日本人の発想力が劣っているわけではなく、国家が、解決すべき問題の発掘のフィールドを制限しているためである。特に研究予算配分先の取捨選択のための評価基準が間違っていることに起因する。

  そこで軍事分野はどうか、とみると、そこには「人間の安全を守る」ための解決すべき問題が山ほどあるのである。兵士が安全に行動するためには事前の情報収集は必須である。その情報たるや、地形情報、施設情報から始まって気象情報、道路情報等挙げたらきりがない。さらに兵士同士の通信や本部との交信をグローバルに行うためには、妨害に強い衛星通信や地上インフラも必要だ。そして無人機(UAV)の操縦技術やセンサー技術、さらに負傷兵の医療技術、食糧技術、快適な服装と、ありとあらゆる面で技術開発すべき問題が山ほど存在するのである。これらの問題解決のための研究から、社会生活をより安全で快適にするための技術が米国から発信されるのである。

  軍事=殺傷攻撃ではなく、攻撃部分の割合は以外と少ないのである。技術を民需に使うか軍事に使うかは人間の判断による。4輪駆動車も市街地で使用すれば平和目的であり、それに兵器が装備されれば軍事目的となる。

  軍事目的から派生した衛星利用の地球観測、通信技術は日常生活に大きな恩恵をもたらしている。携帯電話、インターネット、防災、GPS等々。これら全てが軍事予算で開発された技術をもとにしている。日本が一生懸命開発してきたことはせいぜい携帯電話の高機能液晶画面程度である。

  攻撃型軍事目的に宇宙を利用することは断じて許されることではないが、「紛争地域での人間の安全を確保するという究極的、且つ大きな問題解決課題を設定すると、膨大な研究課題が生まれてくるのである。その課題解決のための技術開発に広く研究予算を配分することで広範な研究が行われ、大手の下請けにしか機能しない日本の中小企業の中から、世界のトップ企業になり得る中小企業、ベンチャー企業が生まれる土俵が設定されることになる。

  それなくして、日本から技術分野でのグローバルな企業が生まれるわけがないのである。基礎研究を除けば目的の無い研究は研究ではないのである。その目的が広ければ広いほどたくさんの研究成果、独創的な発想が期待できるのである。日本では独創的なアイディアや解決策を嘲笑する傾向にある。その理由は「キャッチアップ」が評価される土壌が有るためである。しかしこれは必ずしも日本民族の特質ではない。国家的政策がそうしているのである。日本人の犠牲的精神、堪え忍ぶ忍耐力、ポップカルチャー的楽観主義、新しもの好き、オープンマインドといった特性を考えれば、技術開発すべき広い土俵が設定されれば高いポテンシャルを持ち得る精神文化の国である。

とにかく研究フィールドが狭いのである。ただし、日本の軍事宇宙開発で課題は、宇宙技術や最先端技術を使って守るべき海外の兵士がいないことである。)