2007-09-21 理論物理学者ミチオ・カク氏の語る「宇宙文明への道」

科学は人間の楽観主義の源であり、永遠性とつながりたいという一種の宗教――理論物理学者のミチオ・カク氏が『Idea Festival』で講演を行ない、惑星から恒星、銀河、そして宇宙全体に至る、壮大な文明の進展を論じた。

人類全体(注)がオタク的な悦楽に浸れる時代はもうすぐそこだと、楽天的な未来図を描きたがらない科学分野なんてあるのだろうか。

誤解しないで欲しいが、私はそうしたものが好きだ。ダウンロード可能な心だとか、種を蒔いておけば成長する家だとか、そんなビジョンがなければ、世界はつまらないものになってしまう(いますぐにでも、Charles Stross氏の『Accelerando』を読んで欲しい!)。

こうした希望や夢はいずれも、宗教的とまで呼べそうな機能を担っているように感じられてくる。つまりそれは、楽観主義の源であり、はけ口であり、何かわれわれよりも大きく優れたもの、より長く続くものと一体となること、永遠性をかいま見ることなのだ。

それでいい。われわれの多くは、どのような形にせよ、そうしたものを必要としている――退屈したり、ショッピングモールで無為に過ごしたりしないですむように。

理論物理学者のミチオ・カク氏[加來道雄、日系米国人。超弦理論の理論家で、いくつかの科学読み物がベストセラー]は、ケンタッキー州ルイビルで開催されたIdea Festivalでの講演で、「人類史上最大の跳躍」に繰り返し言及した。

カク氏の話の中には、宇宙文明の進展の段階を定義する「Kardashevのスケール」を採り入れた議論が含まれていた。

まず、タイプ1の文明は、1つの惑星で利用可能なエネルギーを使いこなすという段階だ(WikipediaにはKim Stanley Robinson氏の火星三部作に描かれているとあるが、私はよく覚えていない)。

タイプ2の文明は、(また引き合いに出すけれど)『Accelerando』でのMatrioshka Brainのように、恒星規模のエネルギーをすべて利用できる段階だ。

そしてタイプ3の文明は、銀河規模のエネルギーをすべて扱うことができる(Iain Banks氏が描く、驚くべき「カルチャー」シリーズの世界)。

これに加え、さらにその先の段階として、タイプ4の文明があるのだという。宇宙のエネルギーすべてを利用できるというもので、想像するのは難しいが、『Star Trek』の「http://en.wikipedia.org/wiki/Q_ContinuumQ連続体」のようなものかもしれない。ここまでくると、変換アダプターがどっさり必要になりそうだ。

いずれにせよ、人類はいまだ「タイプ0」の段階にあって、死んだ植物由来の先細りのエネルギーで文明を維持しているし、ここルイビルの空港で乗り継ぎ時間が延びたりすると、ノートパソコンのバッテリーはもたなくなる。

しかしカク氏は、100年以内に人類は本格的なタイプ1の文明へ成長を遂げるだろうと話す。

その兆候は周囲の至るところに見られるという。英語はタイプ1の言語、欧州連合(EU)はタイプ1の経済、インターネットはタイプ1の通信システム、そしてロックミュージックや若い世代のカルチャー、ブルージーンズなどはタイプ1の文化だというのだが……。

カク氏がどのようにしてこうしたものを兆候と捉えるに至ったのか、私にはわからない。インターネットは条件を満たしており、何も問題はない。しかし英語の件は、中国人に伝えないほうがいい。EUについては……私は基本的にEUが好きだし、世界全体がああいうふうに物が分かるようになればとは思うけれど、まずそんなことにはならないだろう。ブルージーンズとロックミュージック? おやおやと言うしかない。すでに時代遅れの感がある。

こうした「兆候」が奥行きを欠いていることに、私がいら立っているように見えるなら、これらのどれもが、Travelocityでベテルギウスへのフライトを予約するような時代がくる、というカク氏の主張と同じ種類の話だからだ。人類の半数は、私が先ほど支払ったコーヒー代金にも満たない金額で日々を過ごしているというのに。

しかし、まあ細部は脇に置いておこう。ときには、疑念を心の片隅に宙吊りにして、夢とともに進むしかないこともある。カク氏はそうしているし、私も同様だ。

カク氏が言うように、われわれの死にゆく宇宙から、いつか逃げだそうというつもりがあるならば、タイプ4の文明に到達して、宇宙規模の粒子加速器を構築する必要がある。

膨大なエネルギーを1点に集中させ、バブル宇宙を形成して、何とか切り抜けるのだ。それが今から数百兆年先の話だとしても、問題ではない。いずれはみんな、年をとるのだ。

注:人類全体とは、ごく少数のきわめて富裕な人々から、船荷倉庫に忍び込む貧しい人たちや、本当に優れた芸術家まで、すべてが含まれている。(wiredvision.jp)

(編集者コメント:興味深い理論である。現在までの人間の歴史を総体的に眺めて全体傾向を明確にし、その傾向の延長上にある未来を予測しようとする求答本能が極めて鋭い学者ということであろう。しかしながら人間が地球で発生した生物の一つに過ぎず、他の生物と同様に常に絶滅の危機に面していることを認識せずに、延命が当然という認識の上で成立させる未来理論には不安と違和感を感じる。)