2006-01-03 中小製造企業、宇宙分野でニッチ産業を模索:海外との競争と発注不足で低利益

首都圏にある小規模製造業者は、衛星やロケット分野でいつかは職人としての力が発揮できる日が来るのではないかと、期待をこめながら何年もの間、宇宙関連プロジェクトに技術を売り込み続けている。

横浜の日本スピン株式会社の工場で旋盤工として働いている技術者は他の高精度部品の製造の傍らでロケットのノーズコーン(ロケットの先端部分)を製造している。下町の作業場で自動車や他の産業向けの高精度部品を多く製造している優秀な熟練作業者にしてみれば、ロケット部品といえどもそれほど無理な作業ではない。

しかしながら、このような宇宙部品製造が事業的に採算が取れるかどうかという話になると別の意味をもってくる。この分野に詳しい専門家に言わせると、継続的な需要が無い宇宙分野の仕事から利益を確保することはほとんど不可能に近いと指摘している。

先月、横浜郊外のある建物で、技術者が三次元の微細な挙動を測定するための巨大な装置の隣にあるコンピュータ画面を監視していた。この作業部屋は、特殊な厚いコンクリートの床の上にあり、高精度の測定のために、いかなる振動も防げるようになっている。

この機械はJASPA株式会社(注:航空宇宙部品の共同受発注の窓口会社)が運用している。JASPAは東京と神奈川県にある中小企業のグループによって昨年設立された共同事業体である。

JASPA代表のセンダ・ヤスヒロ氏によると、JASPAの主な事業は「宇宙関連分野での品質保証と会員企業のための仕事の受発注」ということである。

2年ほど前に、精密金属加工から航空宇宙分野に関わる地元企業によって「まんてんプロジェクト」がスタートし、JASPAはその中で誕生した。背景には、宇宙ビジネスは単独の企業として参入するにはあまりにもコストがかかりすぎることを挙げている。

センダ氏は、航空宇宙産業は最先端技術が要求され、日本はこの分野で競争に勝ち残る必要があると述べている。ただし、世界の技術競争の中で生き残りたいと望めばの話である。

「難しい技術に挑戦しようと立ち上がらない限り、中国のような競争相手はすぐにでもわれわれに追いついてしまう」と、センダ氏は警鐘を鳴らしている。

過去数年間に渡り、JASPAは航空宇宙関連企業大手とJAXAから4件の宇宙関連受注に成功してきた。「我々は宇宙関連事業で、大手が下請け契約をもっと増やすようになった時点で業績も将来拡大すると期待している」と期待を述べている。

しかし、センダ氏は宇宙ビジネスは利益を確保するには大変難しいビジネスであることを認めている。事実、品質保証作業を実施するほとんどの企業は自動車産業や工業機械分野の企業である。実際には、企業が将来の成長を期待している分野として航空分野に賭けているのが本音といったところであり、現在は水上飛行機開発を行っている。

なぜ宇宙関連ビジネスがそれほど少ないのか、センダ氏を含む関係者が一様に指摘しているのは、日本の宇宙プログラムの規模が小さすぎる点で一致しており、宇宙市場では世界の大手企業から大きく水をあけられているとのこと。

過去数十年に渡り、日本は約20機のロケット打上げに成功しているが、これに比べて欧米は5倍から10倍のロケット打上げに成功している。日本の宇宙プログラムの規模は小さすぎて多くの小規模航空宇宙企業を食べさせることが出来ない状態である。

日本政府の宇宙予算は2005年度は2387億円である。国内自動車産業と比較すると微々たる金額であり、自動車産業の年間売り上げは40兆円以上である。

最大の問題点は発注規模の小ささである。横浜を拠点とする宇宙エンジニアリング企業の株式会社アストロリサーチで宇宙システム事業部長を務める岡本博之博士は、「発注規模が小さすぎて小規模企業が利益を確保することはほとんど不可能に近い」、と指摘している。岡本氏によると「メーカから部品を購入することが大変難しい状況にある。」としている。また、「メーカに部品がほしいというと、彼らは”いくつほしいの?1万個?それとも2万個?”と聞いてくる。そこでこちらは5個だけほしい、と答えると、ある企業の社長さんは怒り出すし、ある人は”冗談だろう”と言われて笑われてしまう状態である。」

岡本氏によると、同社は衛星部品の80パーセントを海外から輸入しており、中国、ロシア、ウクライナ、イスラエル製の部品は日本製よりもより安い。

しかしながら、あるメーカが述べているように、宇宙関連の仕事は利益を上げるといったお金のために行っているものではないという企業もある。日本スピン社は十年以上に渡って日本のH-U、H-UAロケットのノーズコーンを提供している。同社代表者の本多広道氏によると、同社は年間5セットから6セットを納入しているが毎年注文を受けているわけではなく、受注数は国の宇宙予算によって変動するが、これまでに50セット程度納入している。

スピニング(回転成型)とは金属を成型するプロセスで、板状の金属板を回転台の上に置き、円筒形や円錐形、その他の形状に成型していく。本多氏によると、ロケットのノーズコーンは時間のかかる作業であり、経験豊富な熟練工でしか扱うことが出来ないとのことである。大変な努力の末に、かろうじて利益を確保しているのが現実であるとも述べている。

しかしながら、本多氏によると、ロケット部品を扱うことは企業の品質の高さを認識してもらうための証明書のようなもので、クライアントの信頼を勝ち取るだけではなく、社員のやる気やモラル向上に大変役に立っているとして、利益だけの目的でやっていないとのことを強調している。

さらに本多氏によると、日本では、「宇宙関連事業は本来の意味でのビジネスにはなっておらず、ステータスという意味でより価値のあるものである。」として、事業性以外に価値があると述べている。(ジャパンタイムズオンライン)