2016-02-01 宇宙経由の高速データ中継システム、実現に向け一歩前進

欧州航空防衛大手エアバス・グループは、衛星やドローン(無人機)から送信される偵察画像やデータをレーザー光線を使って素早く中継する高速データ転送システムを宇宙空間で構築することに向け、大きな一歩を踏み出した。

 フランスの通信衛星「ユーテルサット9B」を搭載したロシア製の大型ロケット「プロトン」が1月30日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。欧州を見下ろす宇宙空間に投入されるこの通信衛星には重さ50キロのレーザー通信装置が搭載されている。エアバスはレーザー通信が大量かつ高速でデータを転送する新たなビジネスにつながると期待している。

 この欧州データ中継システム(EDRS)の未来にとってカギとなっているのがレーザー光線だ。エアバスはこれをシステムの基盤にしたいと考えており、「宇宙のデータ用高速道路」と呼んでいる。同社の防衛部門で通信・情報・セキュリティーの責任者を務めるエバート・デュドク氏は「ここに大きな可能性がある」とみている。

 地球を90分程度で1周する低軌道衛星の場合、専用の地上ステーションにデータを送信できる時間はわずか10分程度だ。ここにデータ送信量の限界があり、ユーザーが映像を入手できるまでに遅延が生じかねない。例えば、氷の塊や氷山などで海路や水路がふさがれていないかどうかなどについて、航行中の船舶からタイムリーな情報提供などが求められている。

 デュドク氏によると、双方向通信が可能なレーザーを利用すれば、観測衛星がより高い軌道を回っているEDRSターミナルへデータを送信する速度が毎秒1.8ギガバイト(通常の家庭用インターネットの90倍程度)になるという。光ファイバーが地上のデータ通信速度を速めたように、このシステムで宇宙空間での通信速度が向上すると同氏は指摘する。

 EDRSが組み込まれた衛星が地上のユーザーと交信する際には高周波(RF)を利用する。この衛星から送られてくる映像は処理時間を含めて15分から18分程度でユーザーに届く。

 デュドク氏は年間の売り上げ目標を明らかにしていないが、エアバスはEDRSプロジェクトに要した5億ユーロ(約657億円)の3分の1を賄うには十分魅力的だと考えている。同システムの運営とサービスの販売を担うのはエアバスだ。米国防総省を含む軍事機関も最終的に顧客になる可能性があると同氏は話す。

 米ドローンメーカーのジェネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(本社:サンディエゴ)は、戦闘下で通常の通信が混雑する中ではEDRSのようなシステムが大量のデータ通信に寄与すると話す。地上と宇宙の間のレーザー交信は年内にも実証実験が行われる予定。同社で戦略的開発のシニアディレクターを務めるクリス・パーソン氏によると、同社の無人機「プレデターB」とEDRSとの間のレーザー交信は来年、もしくは再来年に試験される見込み。

 EDRSの開発でエアバスに協力している欧州宇宙機関(ESA)は2030年までに打ち上げられる400個の低軌道衛星の20%程度がEDRSを利用する可能性があると見積もっている。

 一番乗りの顧客は欧州連合(EU)の欧州委員会だ。欧州委は環境・安全保障面での監視を目的とした地球観測計画「コペルニクス」の衛星でEDRSを利用する。

 ESAによると、国際宇宙ステーションとのリンクが実現するのは2018年の予定だ。(WSJ)