米エネルギー省(DOE)は11月16日、傘下のオークリッジ国立研究所のスーパーコンピュータ「ジャガー」が、世界のトップ500の中で世界最速の栄誉を獲得したと発表した。Cray社製「XT5」への改良によって達成したもので、現在の最も困難な問題を解決するための科学的手段を提供するものだと高く評価している。
「ジャガー」は今年6月に公表されたトップ500リストでは2位だったが、オバマ政権は「米国再生法」(Recovery Act)のもとで、「ジャガー」の改良に約2000万ドルを投じた。DOEのチュー長官は、スーパーコンピュータを使ったモデル化やシミュレーションは、科学の様相を変えるだけでなく、米国の競争力を強化すると指摘。エネルギーや気候変動といった問題と取り組むにあたって有力な手段となり、米国をクリーンなエネルギーの未来へと導くだろうとの期待を示した。
11月に公表されたスーパーコンピュータのトップ500リストを見ると、米国の強さは相変わらずだが、中国の躍進には目を見張るものがある。
10年前のトップ500のリストでは、中国はわずか1台しかリストアップされていなかった。それもベスト100には1台も入っていない。ちなみに、日本はトップ500の中に57台が入っていた。
10年後の今年11月のトップ500リストを見ると、日本の16台に対して中国は21台がランクインした。しかも、中国国防科技大学が開発した「天河1 号機」が5位、上海スーパーコンピュータセンターの「曙光5000A」が19位にランクされたのに対して、日本最速のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」は31位だった。
演算速度を見ると、コンピュータの性能計測(ベンチマーク)プログラムである「HPL」(High-Performance Linpack)で、「ジャガー」1759テラフロップス(1テラフロップスは毎秒1兆回の浮動小数点演算速度)に対して、「天河1号機」563.1テラフロップス、「地球シミュレータ」122.4テラフロップスとなっている。
中国は宇宙分野でも、国をあげて積極的に研究開発に取り組んでいる。推進剤に液体酸素とケロシンもしくは液体水素を使う次世代運搬ロケット「長征5号」は2007 年に政府の認可を取得し、2014年の打ち上げをめざして開発が進められている。「長征5号」は、全長60.5m、最大直径5m、離床重量800t、運搬能力は基本タイプだと10tで、これまでの「長征シリーズ」ロケットの中でも最大だ。
また国家航天(宇宙)局は9月4日、宇宙環境観測や対地観測等の科学研究分野において小型ロケットに対するニーズが高まってきているとの認識から、液体燃料を採用した「長征6号」の開発・製造に着手したことを明らかにした。中国航天科技集団公司第8研究院が開発を担当する。初号機は2013年に完成の見通しだ。なお、ロケットの全長や最大直径、運搬能力など詳細な仕様は明らかにされていない。
9月14日には、国務院と中央軍事委員会の承認を得て、中国で4番目の宇宙センター(射場)となる「海南衛星発射センター」の建設が海南省の文昌市でスタートした。2013年に完成する予定となっている。
同センターは、酒泉(甘粛省)、太原(山西省)、西昌(四川省)に次ぐ中国4番目の衛星発射センターで、「長征5号」の専用射場となる。年間10~12 基のロケットの打ち上げ能力を持ち、静止軌道衛星や大型極軌道衛星、宇宙ステーション、深宇宙探査衛星の発射に利用される。
従来の発射センターは内陸部に位置しており、ロケットの輸送を鉄道に頼ってきた。このため、トンネルを通過する際の制約から、中国のロケットは全長が長く最大直径が小さい傾向があった。しかし、「海南衛星発射センター」は海上輸送が可能となるため、こうした制約を受けなくて済むようになる。
中国初の宇宙ステーション計画も明らかにされた。有人宇宙飛行プロジェクト応用システムの総指揮をとる顧逸東氏が明らかにしたもので、2020年頃に宇宙ステーションの中心モジュールと実験棟を打ち上げ、有人貨物輸送宇宙船を使って補給品などを宇宙ステーションに送り込む計画という。
火星と地球の距離を考慮して2013年に火星探査を行う計画も浮上してきた。月周回探査プロジェクトと「嫦娥1号」衛星プロジェクトを指揮した葉培建氏が明らかにしたもので、中国が単独で火星探査を実施しても、月面への衝突が成功した「嫦娥1号」月探査プロジェクトにかかった14億元ほど資金はかからないだろうとの見通しを示した。
全世界の海底の99.8%を探査できる能力を持つ有人潜水船「和諧号」の1000m潜水試験が8月に終了した。「和諧号」は、有人宇宙飛行プロジェクト「神舟」の海洋版と称されており、中国がハイテク産業技術の開発を目的としてスタートさせた「国家ハイテク研究発展計画」(「863計画」)の「第10次5ヵ年」期の重大プロジェクトとして進められてきた。
「和諧号」は、3人乗りの潜水船で、長さ8m、幅3m、高さ3.4m。日本の潜水調査船「しんかい6500」の最大潜航深度が6500mであるのに対して、「和諧号」は7000m。今後、3500m、5500m、7000m深度での実験を続けていくという。
ビッグサイエンスの中で、これまではどちらかと言えば外国技術に依存する傾向が強かった原子力関係でも、中国は自主開発に力を入れている。温家宝首相が 5月13日に主催した国務院常務会議では、先進的な大型加圧水型炉(PWR)と高温ガス炉(HTGR)を含めた11件の科学技術重大プロジェクトに対して、2009年と2010年の2年間で国家財政から628億元を投入することを決めた。企業投資を促進するねらいもあるという。
原子力以外のプロジェクトでは、高級数値制御工作機械と基礎製造設備、大型航空機、次世代ブロードバンド移動通信ネットワーク、重要電子部品・ハイエンド汎用チップ・基礎ソフト製品、集積回路の大規模製造設備、大型油田・ガス田及び炭層ガス開発、遺伝子組換え生物の新種栽培、新薬の開発・製造、エイズやウイルス性肝炎などの伝染病の予防・治療が含まれている。
科学技術振興機構(JST)がまとめた「中国の科学技術力について」(2008年 12月)は、「中国の先端技術分野の科学技術力は、電子情報通信分野、ナノテクノロジー・材料分野、先端計測技術分野、ライフサイエンス分野、環境技術分野の5つのいずれの分野においても、米国、欧州、日本といった先進国と比して依然かなりの差がある」と結論付けている。
しかし、中国は科学技術力を国の発展の基礎と位置付け、長期的な視点にたって着々と拡充・整備を進めている。日本が、はるかに離れてしまった中国の背中を見る日も近いかもしれない。(執筆者:窪田秀雄 日本テピア・テピア総合研究所副所長 編集担当:サーチナ・メディア事業部)