2016-03-01 宇宙が利用できなくなる前に技術を実証へ

 「〔スペースデブリ(宇宙ごみ)の増加をこのまま放置すれば〕あと数十年で宇宙が利用できなくなる。それを止めるのは、私たちの世代がやらなければならないことだ」。2016年3月1日、記者会見に登壇したシンガポールASTROSCALE社最高経営責任者(CEO)の岡田光信氏はこう語った。

 記者会見が開催されたのは、産業革新機構が同社に3000万米ドル(1米ドル113円換算で約34億円)の出資を決めたため。この大型の投資によりASTROSCALE社は「本当に造りたいものを造れるようになった」(同氏)と打ち明ける。同氏によれば、資金が不足すれば、部材・部品の単位での実証にとどまってしまうが、資金があれば、システムとして最終的なスペースデブリの除去というサービス形態での実証が可能になるという。

 スペースデブリの除去は、以前からその必要性が叫ばれており、国際連合でもずっと議論され続けている重要なテーマだ。しかし、その困難さゆえに、その解決に向けた方策はこれまで講じられてこなかった。岡田氏によれば、(1)飛行機の30倍もの速さで動いているスペースデブリは捕まえるのも大気圏へ落とすのも技術的に難しい、(2)一般にはあまり知られていない問題なので政治的課題としての順位が低い、(3)スペースデブリはごみであり、ごみを回収することに資金を出してくれる人はなかなかおらず資金を集めるのが難しい、(4)多数の国の利害が関係してくるため調整を図るのが難しい、(5)それぞれのスペースデブリには所有権があり、そうしたスペースデブリの扱いに対する法律が整備されていない、などが要因だ。

 そこで同社が注目したのが、これから打ち上げられる人工衛星やロケットだ。事前に契約を結ぶことでスペースデブリの所有権などの問題はクリアできる可能性がある。さらに、1社だけではなかなか太刀打ちできない問題でも、チームを組めばそのハードルは下げられる。そうした考えから、同社は日本の9大学、2高専、50社以上の企業、投資家などとチーム「スペーススイーパーズ」を組んで、除去技術の開発およびサービス提供に向けた取り組みを進めている。実は同社は、日本人が経営し、R&D拠点も日本に持つ日系企業。これまで手付かずだったスペースデブリの問題に、日本のチームが世界に先駆けて挑戦することになる。

 同チームが開発したスペースデブリの除去技術の中核となっているのが「IDEA OSG1」と「ADRAS1」だ。OSG1は、数十cm以下の小さなスペースデブリの中を飛び、それらの一部を捕獲するとともに、スペースデブリの分布状況を示すマップを作るための情報を集める超小型衛星である。一方、ADRAS1は、本体の先頭部に取り付けた粘着材を使って数十cm~数m級のスペースデブリを捕獲し、それらを大気圏に落としたり混雑している軌道から外したりする超小型衛星だ。同社は、今回獲得が決まった資金を使い、OSG1を2017年上期、ADRAS1を2018年上期にそれぞれ打ち上げて実証実験を行う。その後、実証実験の結果を約2年ほどで検証し、2020年くらいからスペースデブリ除去のビジネスをスタートさせる計画という。(日経テクノロジーオンライン)