2007-04-23 H2A民営化スタート 費用分担せめぎ合い

情報収集衛星を搭載したH2Aロケット12号機。種子島から商業衛星を打ち上げる日はいつか=2月24日、南種子町 日本の基幹ロケットH2Aは、4月から、宇宙航空研究開発機構が行ってきた打ち上げ業務を三菱重工業に移管した。商業衛星打ち上げの国際市場へ本格参入が始まる。しかし、打ち上げ費用の負担範囲をめぐり、両者の間ではせめぎ合いが続いている。

  H2Aは従来、三菱重工が製造し宇宙機構に納入。打ち上げは宇宙機構が行っていた。民間移管により、製造から打ち上げまで一貫して三菱重工の責任で行われる。宇宙機構による最後の打ち上げとなった、2月の12号機に立ち会った同社の前村孝志技師長は「官のしがらみにとらわれずやりたい」と前向きだ。

 移管後の宇宙機構の役割は、信頼性向上に向けた研究開発と打ち上げ時の安全確保。具体的には、2段目エンジンと固体燃料補助ロケットの改良や、飛行ルートに船舶などを進入させないようにすることなどだ。飛行中のロケットに異常が生じ危険と判断すれば、破壊指令を出す権限もある。

 両者の間で問題となっているのは、射場の維持費をどこまで負担するかだ。三菱重工は「射場は空港のようなもの。地上設備の維持管理は国の責任」と主張する。

 H2Aの打ち上げ経費は1回約100億円。打ち上げで傷んだ射台や耐火コンクリートの補修費なども含まれる。三菱重工は、国がこれらや安全確保業務分を負担し、打ち上げで得られたデータをロケット開発名目で買い上げることで、20−30億円下がると試算する。

 宇宙機構も射場の維持管理は所有者である機構の責任という認識だが、「発射に伴う補修費など、細かいところは現在も調整中」(宇宙輸送プログラム推進室)と歯切れが悪い。

  費用分担がまとまらない現状を、宇宙ジャーナリストの松浦晋也氏は「民間移管すればコストが下がるというのは幻想。H2Aを基幹ロケットとして維持するには、70−80億円とされる国際価格との差を国が負担するしかなく、当然予想されたこと」とみる。

 民間ロケットへの補助は、衛星ビジネスのライバルとなる海外から批判を招く恐れもある。だが、松浦氏は「実際は欧州でもやっていること。産業振興のために外圧を突っぱねられるかどうかだ」と政治の力を求めた。

 移管後初のH2Aは、8月、宇宙機構の月周回衛星「セレーネ」を搭載し、種子島宇宙センター(南種子町)から打ち上げられる。(asahi.com)