“ヒッチハイクで火星まで”。やがてそんな日が来るかもしれない。小惑星に“便乗”して火星に向かうという新たな可能性が示された。
火星旅行の際には、乗客に有害な宇宙線(光速に近い速度で太陽系外から飛来する高エネルギー粒子)が課題となる。だが、小惑星に宇宙船を着陸させれば解決できる可能性があるという。
宇宙線はDNAを傷付け、ガンや白内障を引き起こす危険がある。火星往復には約1000日かかるが、その間に人間が被曝する放射線量は、ガンの発症率を1~19%引き上げるという研究結果も出ている。
地上に設置する放射線の遮蔽シールドは非常に重く宇宙船には搭載できず、完全な遮断効果が期待できるわけでもない。そのため軽量で薄いアルミニウム製のシールドを使うのが一般的だが、宇宙線との相互作用でより危険な二次放射線が発生することがあるため、長期の使用には向いていない。
NASAのアポロ計画で月に旅立った宇宙飛行士たちも多量の放射線に被曝したが、当時は短期間で済んだ。また、宇宙ステーションに滞在中は、地球が最悪の宇宙線から守ってくれている。地球近傍では、太陽系外や太陽から降り注ぐ宇宙線の3分の2が地球の大気と磁場によって遮断されるためだ。
しかし火星の場合はそうはいかない。短期間のミッションでも、十分な遮蔽シールドがないままに18カ月ほどは宇宙の深部に留まることとなる。
「そこで高性能なシールドの代わりに考案されたのが、小惑星に“便乗”できる宇宙船の開発だ」と、今回の研究を率いたニューヨーク市立大学工科カレッジの非常勤教授グレゴリー・マトロフ氏は語る。
同氏の計算によると、十分な遮蔽効果を得るため、“タクシー”代わりの小惑星には10メートルほどの幅が必要だという。軌道が火星と地球の両方に十分近い(数百万キロ以内)ことも条件だ。
彗星や小惑星など、軌道が地球に近い5500個の地球近傍天体(NEO)のデータベースを分析した結果、5つの小惑星がこの条件に合致し、2100年までに地球を通って火星に向かうことが確認された。
しかもNEOのデータベースに登録済みの天体は増加を続けており、現在では7000以上に上っているとマトロフ氏は言う。“タクシー”候補が他にもある可能性は高いだろう。
究極的には、適度なタイミングで地球と火星の間を永久的に行き来するように、小惑星の軌道を変えてしまう方法が考えられる。太陽光を動力とするソーラーセイルなどの推進装置をうまく使えば不可能ではない。
「小惑星が安定軌道に入った後は“飛び乗る”だけでいい。食糧や機材を保管し、遮蔽シールドとして有効利用できる」というのがマトロフ氏の考えだ。
しかし、NASAの宇宙線遮断プロジェクト(Space Radiation Shielding Project)を進めるナッセル・バーゴウティ(Nasser Barghouty)氏は、「理論的には可能だが、離着陸の回数が増えるためリスクが非常に高い」と話す。「旅客機を何度も乗り継ぐようなものだ。回数が増えればミッションが複雑になり、危険性も高まる」。
よりシンプルな方法は、アルミニウム以外の素材で軽量なシールドを作ることだ。例えば国際宇宙ステーション(ISS)では、滞在者を宇宙線被曝から長期的に守るため、プラスチックのプレートを採用している。「それで間に合っている」とバーゴウティ氏は語った。(ナショナルジオグラフィク ニュース)