2009-05-05 理系白書’09:挑戦のとき PDエアロスペース

 PDエアロスペース社長・緒川修治さん
  ◇39万円の宇宙旅行を−−緒川修治さん(38)

 東海道の宿場町の風情が残る名古屋市の住宅街に、緒川修治さんの「夢の工場」がある。実家敷地内の10畳のプレハブがオフィス。隣接する工房には手作りの燃焼実験室も備える。

 宇宙空間(高度100キロ)まで低コストで往復できる有人宇宙機を民間で開発することが目標だ。膨大なコストがかかるロケットに代わる輸送手段を実現する技術に「パルスデトネーションエンジン」(PDE)を選んだ。

 金属筒に燃料と空気を入れて点火すると爆発的に燃える。爆発で低圧になった燃焼室に、外部から新たに燃料と空気を供給し爆発させる。この繰り返しで推進力を生む仕組みがPDE。単純で故障のリスクが少ない。緒川さんはこのPDEに、ジェットエンジンとロケットエンジンの両方の機能を盛り込む計画だ。

 子ども時代の目標はパイロット。しかし何度も受けた試験は不合格。航空機を作る仕事に目標を切り替えた。34歳の時、米国で民間による有人宇宙機コンテスト「Xプライズ」が開かれ、わずか数十人の企業が宇宙機開発を成功させた。「日本でもやってやれないことはない」と07年、起業した。

 ゴールは「14年のクリスマスまでに有人宇宙機を完成させる」。酸素がなくなる高度15キロ以上は自前の酸化剤から酸素を供給する。製造コスト、運用コスト、信頼性のすべてで既存エンジンを超えるこの「切り替え法」を特許申請した。

 欠点は燃焼が安定しないこと。緒川さんはPDEのベースとなる「パルスジェットエンジン」を自作した。1・6メートルのデモ機に搭載したテストは昨年、3度試みた。1回目は離陸できず失敗。2回目は離陸したが、エンジンが作動不良を起こした。3回目は1分間飛んで無事着陸できた。「ほっとした。ただこんなものはおもちゃ」と表情を引き締める。

 夢をかなえるための資金を90億円と見積もった。政府の助成金を申請し、スポンサー探しに奔走する。不景気は逆境だが「本当に好きなことならがんばれる。『無理』と言う前にやることがたくさんある」。

 筑波大、九州工大、名古屋大など7者による共同開発のめどもたった。町工場の社長が部品を無料で作ってくれた。生涯のうちに、欧州旅行並みの39万8000円で宇宙旅行を実現したいと語る。現在、米企業が提供する宇宙旅行は2000万円だ。「家族で行って、子どもに宇宙から地球を見せてほしいから」【毎日新聞 元村有希子】