2006-05-16 やはり平和利用が原則だ 宇宙開発新法

日本の宇宙開発・利用をめぐる状況が大きく変わろうとしている。

 自民党が「防衛目的」の軍事利用に道を開く「宇宙基本法案」を来年の通常国会に提出する方針を決めたからだ。

 宇宙開発を「非軍事目的」に限定してきたこれまでの日本の宇宙政策では国際的な技術開発競争、宇宙産業ビジネス競争に後れを取りかねないため、政策を転換しようというものだ。

 自民党の宇宙平和利用決議等検討小委員会では、立法の趣旨を宇宙関連産業の育成と、日本の安全保障や危機管理への宇宙技術の活用と説明している。

 だが、この新法ができれば、情報収集(偵察)衛星や早期警戒衛星など「防衛目的」の宇宙利用が初めて法的根拠をもつことになる。

 しかも、日米が共同で取り組むミサイル防衛(MD)計画が動きだすなかでの政策見直しである。「防衛目的」が拡大解釈される恐れはないのか。国民や日本の軍事動向に敏感な近隣諸国の理解は得られるのか。

 宇宙政策だけでなく、わが国の安保政策の転換にもつながる新法である。法案化にあたっては、丁寧な説明と国民的な議論を求めたい。

 宇宙の開発と利用については、国連宇宙条約で軍事利用は制限されている。日本は同条約を受けて1969年に国会で「宇宙利用は平和目的に限る」とする平和利用決議を全会一致で採択した。この決議は以来、40年近く日本の宇宙政策の原則となってきた。

 当時のわが国は初の国産衛星打ち上げを目指していた時代だ。宇宙の利用が通信や気象・環境などの情報収集にまで広がったいま、宇宙開発の目的を「平和」に限定し「非軍事」と解釈した国会決議に縛られていては、わが国の宇宙開発技術や宇宙関連産業の国際競争力が削(そ)がれるというのが自民党の言い分だ。

 高度の性能をもつ衛星による情報収集は地球規模の環境破壊や災害、テロ、海賊の防止に役立ち、国際貢献にもつながるというのも、新法制定の理由だ。

 宇宙条約の軍事利用制限は「自衛の範囲の軍事利用は禁じていない」というのが国際的な解釈となっていることも、新法制定の動きを後押ししている。

 既に情報収集衛星を導入し、MD計画を推進していることを考えれば、わが国は軍事利用に踏み込んでいると言った方が正確かもしれない。その意味では宇宙利用を「非軍事」に限定した国会決議の解釈は破綻(はたん)しているともいえる。

 だからといって、平和利用の原則を捨てて現憲法の下で軍事利用を法的に認知するというのでは、短絡的すぎる。

 平和利用が果たしてきた利点を検証し今後、平和利用の原則はどうあるべきかから議論すべきではないか。「始めに軍事利用ありき」では、平和憲法をもつ国としては、あまりにお粗末だ。(西日本)

(編集者コメント:法案の目的は防衛よりは産業活性化にある。世界の宇宙産業は軍事プログラムによる膨大な予算を背景に事業が成立している。日本の宇宙産業を活性化するためには世界の動向を追いかける必要があるという、短絡的な発想が元になっている。しかしながら、軍事以外に宇宙開発に膨大な予算を配分するための正当な理由付けが見あたらないことも事実。また軍事宇宙部門は最先端技術創出の要ともなっていることを見逃せない。軍事に定義を再定義する必要があるのか、あるいは技術に依存しないアナログ式軍事も可能なのか、再検証が必要であろう。)