2016-04-16 いま目指すべきは「火星よりも、月」NASA宇宙飛行士たちが上げる声

近年話題に上がっているNASAの「有人火星計画」。しかしその裏には、公には明かせないNASA宇宙飛行士達の想いがあった。現在国際宇宙ステーションに滞在するイギリス人宇宙飛行士のティム・ピークが、人類が次に目指すべき場所について語る。

候補者として採用された瞬間から、NASA(アメリカ航空宇宙局)の宇宙飛行士たちはメディア対応についての厳しいトレーニングを受けることとなる。公の前では内部情報を明かさないこと。宇宙開発を推進すること。指示に従うこと。そしてメデイアの受け答えの際には常に、NASAの活動がどれだけ素晴らしきものかを語ること。

別に驚くことではない。NASA宇宙飛行士のほとんどが軍の出身者であり、彼らは命令に従うことには慣れている。しかし最も重要なのは、彼らはみな宇宙に行きたがっている、ということだ。ルールを破った者には、宇宙飛行のチャンスは巡ってはこない。

とはいえ、NASAの宇宙飛行士にも宇宙開発に対して彼らなりの意見がある。そして彼らの多くは、NASAの火星計画に疑問を抱いている。彼らは、人類はまず月面に戻り、将来の深宇宙探査に必要な生命装置等の開発とテストを行うことを推進している。

さらに、ヴェテラン宇宙飛行士の多くは、米政府と議会、そしてNASAが果たしてどれほど団結して今後の宇宙開発計画を進められるのか、不安を感じている。言い換えれば、月に戻るための10年計画の方が、20年以上を見通す有人火星探査計画よりも実現する可能性がはるか高いのだ。

もちろん、彼らはこのことを公で口にすることは決してない。しかし、現在国際宇宙ステーションに滞在しているティム・ピークはNASAの宇宙飛行士ではない。ピークはヨーロッパ宇宙機関に属するイギリス初の宇宙飛行士であり、NASAのメディアルールに従う必要はないのだ。

だからこそ、先日英国の放送局Sky Newsで報道された生中継のインタヴューで月面基地の建設について質問されたとき、彼はまったく動揺することはなかった。なんと、彼はそのアイデアに賛成したのである。

「月面基地は、将来の有人探査でわたしたちが直面するであろう放射線やエネルギー生産についての問題を解決するのに役立つでしょう」とピークは言う。さらに、月そのものに行く価値があると彼は付け加える。

「月は研究施設を建設するのにうってつけの場所です。月について解明されていないことがまだまだ多くあります。謎を追求すれば、わたしたちの惑星の起源についての知識を深めることができます。今後、月が人類の次の目的地であると同時に、火星への踏み台へと捉えられることを願っています」

ピークの視点は、ヨーロッパ宇宙機関の事務局長、ヨハン・ディートリッヒ・ヴォーナーが掲げる「ムーン・ヴィレッジ(月面集落)」と呼ばれるコンセプトと合致している。ヴォーナーは、世界各国の宇宙機関が協力してムーン・ヴィレッジを建設し、月面探索や、氷やレアメタルなどの原料採取を行うことを推奨しているのだ。

また、ピークの意見は女性初のコマンダーとして活躍した元NASA宇宙飛行士であるエイリーン・コリンズの意見とも一致している。「クルーメンバーの1人として火星探査への対策法を聞かれたら、まず現地で使用されるハードウェアなどがまず月面でテストされるよう強く希望するでしょう」と、コリンズ氏は2月に行われた議員会で証言している。

「これはミッション構築の上で重要なアプローチです。宇宙飛行士たちは政治家が練る宇宙探査計画に命がけで挑むわけであり、わたしたちの経験上、リスクを少しでも減らすためにまず似た環境で機器の動作点検を行うことが大切だと考えます」(コリンズ氏)

「すでに到達しているから」という理由で2010年にオバマ大統領が有人月面探査プログラムを中止して以来、NASAは月を目的地として捉えてはこなかった。現在NASAでは月周回軌道で探査機器等をテストするとの話題が上がっているが、月面へ戻る計画は他国に任せている。しかし宇宙コミュニティーの多くが、次の大統領が出身党に関係なく、この方向性を検討し直すことを期待しているのも事実だ。(WIRED)