2016-02-05 「宇宙へ行く初の民間アーティスト」を目指す男の宇宙飛行士訓練

ドイツ生まれの冒険アーティスト、マイケル・ナジャーは、宇宙に行ってアート作品をつくろうと考えている。宇宙旅行のチケットを買って、宇宙飛行士向けの訓練を経て、目指すは地球が青く見えるという高度100kmの未体験ゾーンだ。

宇宙を題材にしたアートはたくさんあるが、宇宙空間へ自ら行ってつくった者はいない。マイケル・ナジャーはその初の称号を狙っている。彼は、2012年に「宇宙に行く初の民間アーティスト」になろうと決心し、世界初の民間宇宙旅行を計画しているヴァージン・ギャラクティックのチケットを購入した。それ以来、飛び立つ日が来るまで宇宙飛行士並みの訓練を積み重ねている。
決心のきっかけはある日、突然訪れたという。前作のシリーズを制作するために登ったアルゼンチンのアコンカグア山で、高度6,962mの頂上に辿り着いたときだ。

「頂上から眼下に広がるアンデス山脈を眺めていたとき、ちょうどサンティアゴから離陸したスイス航空のボーイング747が、ぼくのはるか頭上を通り過ぎて、深い青空へと消えて行ったのです。そのとき、ここからさらに一歩踏み出して、宇宙を目指してみるべきだ、という心の声が聞こえてきました」

のちに、ヴァージン・ギャラクティックが宇宙旅行の参加者を募集をしており、25万ドルを払えば誰でも宇宙へ運んでくれることを知った彼は、3人のアートコレクターから資金援助を受けてチケットを購入した。
ヴァージン・ギャラクティックが条件として求める範囲を超えて、ナジャーはプロの宇宙飛行士のために用意された、さまざまな訓練に自ら率先して申し込み、体験している。

プールで船外活動の訓練を体験したロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センターとは、1年以上にわたって数え切れないほどの電話やメールでのやり取りをした結果、ようやく訓練体験が認められた。その後も、訓練の様子を写真家のトーマス・ラッシュが記録するという許可を一緒に取り付けるために、さらに困難な交渉が続いたという。

「水中撮影に使う機材とセットアップをチェックするためにベルリンのスイミングプールを貸し切り、綿密な撮影プランを練って、事前にロシアに送りました。交渉は大変でしたが、最終的にはロシアのスタッフから『マイケル、過去50年間、ぼくらが守ってきたあらゆるルールを君は壊すことになるけど、協力するよ!』と言ってもらえました」

最も過酷な体験だったのはドイツ航空宇宙センターの遠心力荷重訓練で、戦闘機に乗って成層圏を音速の2倍の速さで飛び、最大7G(地表の重力の7倍)を体験したときだったという。一時的に色彩感覚を失い、二度も失神しかけたのだ。それでも彼は宇宙への志を失うことなく、訓練を続けている。

「今回のシリーズ全体では30〜40の作品をつくりたいと考えています。宇宙旅行については、なるべく過度な期待はもたないようにはしていますが、間違いなくシリーズのなかでのハイライトになると思います。未来のある時点で、人類は地球の周回軌道や他の惑星で生活できるようになるでしょう。それは次の世代の人類にとって、どんな意味をもつのか。どのように文化は変わりうるのか。それを問うようなシリーズにしていきたいと考えています」(Wired)