2003-11-01 総開発費1400億円がふいに 衛星みどりの回復不能

ドイツ高周波物理研究所が28日、レーダーでとらえた「みどり2号」。斜めに長くのびる太陽電池パネルに破断の形跡はみられない=宇宙航空研究開発機構提供

 10月25日から通信途絶していた世界最高性能の環境観測技術衛星「みどり2号」の回復不能が決定的となった。地球環境の国際研究を担うはずだった先代の「みどり」と合わせ、日本政府が中心になって両衛星に投じた総開発費は約1400億円(日本負担は約1200億円)。保険金は原因調査を賄う程度。米仏研究機関の機器も搭載しており、日本の衛星技術への信頼失墜は避けられない。

 宇宙航空研究開発機構の山之内秀一郎理事長は31日、運用断念を河村文部科学相に報告。97年に運用断念したみどりと同様、2号も「心臓部」の電源系の故障で10カ月の短命に終わった。3年の設計寿命に遠く及ばない。同日午後の記者会見で、日本の宇宙開発の技術力は欧米に比べ、「圧倒的に後発、圧倒的に経験不足だ」と漏らした。

 通信が途絶したのは、衛星の動力源である電力の太陽電池パネルからの供給が急に減し、バッテリーがあがったせいだ。太陽電池は強い放射線や太陽光にさらされるため、先端技術を駆使して防護されているはずだった。

 電源系のどこがどうして故障したのかはわかっていないが、他の衛星でも共通部分が多い。同機構は27日、「電源問題」を検討する専門家チームを設置した。

 同機構によると、電源系トラブルは、データ中継技術衛星「こだま」でも小規模ながら昨年と今年の2度起きた。欧米の衛星では安定している電源系の設計に、日本の技術陣の見落としがあった可能性もある。太陽表面での爆発(フレア)による磁気嵐の影響説も浮かんだが、否定的な見方が強い。

 宇宙3機関が統合した同機構は、10月1日に発足した。大気中の雲や微粒子などを高精度で観測できるみどり2号は、その基幹となる大型衛星だった。重さは3.7トンで、気象衛星「ひまわり5号」の約10倍だ。

 同機構の前身、宇宙開発事業団の専門家は「衛星は年々大型化し、高価になっているが、今の技術レベルでは失敗のリスクが大きすぎる。大型化路線を考え直すべきではないか」と指摘する。

 発足前の会見で山之内理事長は「米ロ、欧州に追いつけという時代は過ぎ、地球環境の観測など、これからは宇宙で何をやるのかが問われる」と強調した。その言葉と裏腹に、技術基盤のもろさが露呈した。

 みどりシリーズの連続失敗で、身内からの批判も強まった。

 両衛星には環境省のオゾン層観測センサーが積まれていた。小池環境相は31日の閣議後会見で、「多額の税金を投入するのだから、(今後の観測機器を搭載する)親ガメをどうするか考えたい」と不信感を示した。

 文科省は、昨秋決まったばかりの地球観測の10年計画を抜本的に見直す方針を決めた。独自衛星にこだわらず、外国の衛星に国産センサーを載せるという選択肢も、検討課題になるのは必至だ。

 研究者らは後継機の行方に危機感を強める。東京大気候システム研究センターの中島映至(てるゆき)教授は「地球環境研究は近年、飛躍的に進歩している。日本だけが流れに乗り遅れてはならない」という。

 後継機開発には金が必要だ。みどり2号には複数の保険がかけられているが、支払われるのは「打ち上げから1年以内に運用停止になった場合」の3億円程度とみられる。同機構幹部は「700億円を超える開発費からみれば焼け石に水だが、この金はすべて原因究明にあてる」と話す。( asahi.com)