2006-01-30 純民間版宇宙開発をリードする億万長者たち

米国では純民間企業による宇宙ビジネスが活況を呈している。彼らは開拓者精神あふれる人物ばかりであり、地球の事業で成功して巨額の資金を手にしている者ばかりである。ここに挙げたのは、現在メディアによく出てくる宇宙ビジネス起業家たちである。彼らのプロフィールを簡単にまとめた。

ポール・アレン Paul Allen(52)

マイクロソフト社の設立者の1人であるアレンは、アメリカで3番目の大金持ちとなっており、Xプライズの勝利者であるスペースシップワンの大口資金提供者でもある。彼の新しい会社、モハベエアロスペースベンチャーズは、スペースシップワンの設計者としても有名となったバート・ルタンと共同で設立された。現在ヴァージンギャラクティック社向けに宇宙船を開発している。

バート・ルタン Burt Rutan(62)

伝説的な航空機機設計者でスペースシップワンを設計した。スペースシップワンはアンサリXプライズ懸賞金競技で優勝した準軌道スペースプレーンであり、さらに単一の燃料タンクで世界一周ノンストップ飛行を世界で最初に成功させた。設立した企業としてスケールドコンポジット社、そしてモハベエアロスペースベンチャがある。
リチャード・ブランソン Richard Branson(51)

型破りの億万長者で、自らレコード会社、携帯電話サービス会社、航空会社、そして今は宇宙に彼の次の事業を求めている。バージンギャラクティックは2009年初め頃を目途にして、一般旅行者を乗せた3時間の準軌道宇宙飛行サービスを開始する。
ジョン・カーマック John Carmack(35)

伝説的なビデオゲーム設計者で、DoomとQuakeのような古典ともいえるシューティングゲームで有名である。このゲームソフト開発でidソフトウェアという企業を設立している。現在、彼は新しいロケット開発会社アルマジロエアロスペース(Armadillo Aerospace)を設立し次世代の宇宙船を開発している。

イーロン・ムスク Elon Musk(34)

ネットを利用したオンラン支払いサービスのペイパル(PayPal)の共同設立者の1人で、さらにエーベイ(eBay)を1500億円で売却し、巨額の資金を手にしている。現在彼はこの資金を元にして、ロケット開発会社スペースエクスプロレーションテクノロジ(Space Exploration Technologies)を設立し、低コストロケット「ファルコン1」号機を間もなく打ち上げる予定である。

最近では、電気自動車メーカ、テスラモータース(Tesla Motors, Inc. )の筆頭株主となり取締役会長に就任している。電気自動車の開発に積極的である。

最初の生産車両「テスラ・ロードスター(Tesla Roadster )」はリチウムイオンを利用した完全な電気自動車のスポーツカーである。 新しい電池供給者としてEnerDelを選択、

テスラモータースはSolarCity社(イーロン・マスク出資の別会社)を通じて家庭の屋根に取り付ける太陽光発電システムを提供する事を計画している。これは、家庭の充電器により使用される電力を相殺する事を意図しており、電力網の負担無しで1日当たり80km(50マイル)の旅行を可能にする。

予想だが、ロケット開発と同じく、自動車開発にもIPを駆使した単純且つ高度な制御を可能とする電気自動車かもしれない。

なんていうか、積極的なベンチャー企業が新時代を作る社会体制は驚嘆と同時に羨望の的である。日本で電気自動車開発となると、さしずめ経済産業省が委員会と呼ばれるグループを作り、トヨタ等の大手企業の参加を促しながら公的資金を割り当てる特殊法人を設立することから始まる。このことでベンチャー企業設立を阻害し、民業圧迫の弊害を伴っている。ただ「国家」の国際競争力という名目では短期間に事業が起ち上がり、大企業のノウハウを利用することで低コスト且つ公的資金の一極集中により効率的な事業立上げが可能となる。ただし大手企業に集中するため産業の裾野は狭くなる。

ただ、かつてオートバイ産業には多くの民間企業が参加して切磋琢磨し、その中で世界のホンダが成長したような、民主導の産業成長プロセスは阻害される。一体日米の新産業育成の違いは何なのか興味深い。官主導の日本と民主導の米国のどちらが勝利するか注目したい。

ラリー・ペイジ Larry Page(32)

インターネットの巨人、グーグル(Google)の設立者の1人で、Xプライズ基金の評議会メンバーでもある。宇宙研究開発を促進するために新しい競技を計画している。
ピータ・ディアマンディス Peter Diamandis(34)

中学2年生のときにディアマンディスはロケット設計競技で優勝を果たしている宇宙好き。しかし決して過去を振り返ってみることは無い。Xプライズ基金の設立者であり、国際宇宙大学の共同設立者でもあり、無重力体験旅行会社ゼログラビティ(Zero Gravity)社、宇宙旅行代理店であるスペースアドベンチャの共同設立者、そしてロケット開発競技のロケットレーシングリーグ(Rocket Racing League)の共同設立者でもある。
ジェフ・ベゾス Jeff Bezos(41)

アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)の創立者で億万長者のCEO。さらに小型の準軌道宇宙船を開発するためにブルーオリジン(Blue Origin)社を設立し、開発資金を提供している。
エリック・アンダーソン Eric Anderson(31)

スペースアドベンチャ(Space Adventures)社のCEOであり社長でもある。アンダーソンは宇宙旅行産業の開拓者でもある。初の宇宙旅行者となったデニス・ティト、それに続くマーク・シャトルワース、グレッグ・オルセンらを国際宇宙ステーションに送り込んで一躍有名になった。

ロバート・ビゲロー Robert Bigelow(60)

ラスベガスの実業家でチェーンホテルを展開するホテル王でもあるビゲローは、宇宙ホテル建設を目指して、ビゲロー・エアロスペース社を設立。NASAが開発した拡張式居住施設システム「トランスハブ」の技術を購入し、現在打上げに向けて開発中。

 

ジム・ベンソンJim(James) W. Benson (61)

もともとはコンピュータ科学の専門家。コンピュータ事業で成功し、1997年に私財を投じて、宇宙関連エンジニアリング会社 SpaceDev を設立し、安価で高信頼性の超小型衛星、ハイブリッドエンジン等の開発に成功してNASA契約も獲得。SpaceShipOneのロケットエンジンも開発した。2006年9月28日、宇宙船開発及び宇宙旅行開発会社、ベンソン・スペース・カンパニーを設立し、Dream Chaser 宇宙船を開発中。(2008年、脳腫瘍にて病死)

軌道を飛行するDreamChaser(イメージ) 地球軌道へ打ち上げ(イメージ)

 

Who is the next?

 ホリエモンも挑戦したが惜しかった。何か別の高尚な哲学が必要だったのであろう。公務最優先、思想なき拝金主義が徘徊する日本からここに名を連ねる人物は登場するのだろうか? なにかはっきりしないが理性及び哲学を伴った資本主義のなせるエネルギーのようなものを感じる。

日本にはこのような個人的なエネルギーを増幅させ、受け入れる仕組み、社会風土、文化的思想があるのだろうか?今後どのような目標に向かって一生懸命働くのが良いのだろうか?トヨタ、松下的に地道にコツコツと重箱の隅を丁寧に磨きながら既存の技術を成熟させる自己鍛錬、自己犠牲的精神を美徳とすることに、世界から刺激を受けている若い世代は満足するのだろうか?下町の職人という表現をジャーナリズムが使うが、そこには尊敬の意思は含まれているのだろうか、それとも単に単価の安い、ちょっと手先の器用だがいつも貧しく金銭感覚が無い、坂田三吉的無鉄砲な職工ということなんだろうか?公的機関は彼らこそ日本のこころ、日本のエネルギーと持ち上げるがほんとにそう思っているのだろうか?本当にそうならば、何故そこから成功者が出ないのであろうか?

「下町工場から宇宙に」なんていう動きもあるが、これは大手企業が興味を示さない、つまり多額の公的資金が出せないから、なんとか少ない資金でも喜ぶ中小企業に焦点を当てて、「日本は一生懸命宇宙産業発展に貢献している」という公的機関のプロパガンダに利用されているだけではないのだろうか?宇宙分野に限った話ではないが・・・

 ここに挙げた人物に並ぶことができる日本人が誕生するようなイメージを持てるだろうか?日本人から見ると、彼らは「異端で思い入れ、思い込みの強い成金のドンキホーテ」なんだろうか?でも彼らはとにかく独創的な事業では成功者である。日本にはこのような独創的な企業家が成功する土壌があるかどうかがまず問題である。あるいは人間的には独創的であるが、独創的事業の起業家をつぶそうとする「見えない力」が横行しているのではないだろうか。

そもそも日本の宇宙業界でベンチャーを育成しようとする思想と体制が存在しない。なぜなら日本の宇宙関連機関自身が、返済の必要がない税金を投資資金としてベンチャー企業化を目指している。このような不健全な資本主義社会が根底にあるために、ホリエモンが取った手法でしか日本の場合は大金を手にする方法がないのであろう。”資本主義の「精神」とは、単なる拝金主義や利益の追求ではなく、合理的な経営・経済活動を支える精神あるいは行動様式”のはずである。