コラム:宇宙ステーション科学研究、縮小に直面

後退と新方針への変更で論議が巻き起こる

十数年前まで国際宇宙ステーションは宇宙科学、特に地球への応用が大いに期待された研究の最先端施設とう売り文句で大いに期待をされていた。

しかし過去数年で宇宙ステーション向け予算は大幅に削られ、来年はさらに大幅な削減が予定されている。スペースシャトルアトランティスが打上間近だが、NASAは研究を行うというよりもステーション用のハードウェア輸送の重点を置いている。

ある専門化によると、NASAはステーションを10兆円の白像(金食い虫の意味)を完成させてそのままにし、その後は早急に月や火星探査に米国の宇宙探査に方向性を転換するつもりである。

科学や宇宙政策専門家を含むこれらの専門家によると、NASAは宇宙ステーションは機会よりも義務として捉えているようだ。

宇宙関連のウェブサイトNASA Watchを運営し、また宇宙関連のニュースウェブサイト事業であるSpaceRefの創始者の1人であり、さらに宇宙ステーションの初期設計に携わったことのあるキース・コーイング氏は、「NASAにとってステーションはほとんど重荷となっており、さらに企業の注意度欠如障害に落ちっているようだ。」と述べている。

米先端科学協会の研究開発予算政策プログラム部長のコイズミ・ケイ氏は、「NASAの研究部門低下は、その数値が明白にあらわしている。科学部門はではプラス部分なんか全くない。」と述べている。

宇宙ステーションは本当に投資に見合った価値のあるものなのか、そして宇宙飛行士が生活するには安全なんだろうか?

NASAは現時点でステーションは予定していた責任と機能を果たせる状態ではない。これも予算超過、組立の遅れ、そして2003年のコロンビア事故の影響などが原因となっている。NASAは数百億円レベルの予算をステーション関連から月探査計画に振り分けることを強いられている。さらに2010年以降ステーションが完成し、スペースシャトルが退役した後も、ステーション利用計画を見る限り利用しない空き空間が有り余っている状態である。

しかしながらそれでもNASAは、ステーションの役割が惑星探査や地球へのスピンオフ技術開発に直接的に担ってないとしても、依然として宇宙探査計画には重要な位置を占めていると主張している。

かつてステーションに滞在し、現在ステーションの科学プログラムの管理運営を支援しているカール・ウォルツは、「我々は大変難しい予算環境にあるが可能な限りステーションの機能を維持しようとしている。予算が増加したときには科学研究活動を積極化したい。」と述べている。

科学より組立最優先

ウォルツや他の宇宙ステーション管理者は、(微小重力などの)科学分野はステーションを完成させることよりも優先順位が低くなっており、次のシャトル打上であるアトランティス再開で、ステーション完成まで残り4年間の切羽詰った状況に挑戦することがもっとも重要課題となっている。

それでも依然としてステーションの科学装置が輸送されることになっている。研究用冷凍庫は前回の打上でステーションに持ち込まれ、また微生物実験装置も今回のアトランティスで輸送される。しかしながら、クルーの作業時間はほとんどが組立に費やされ、科学者らが期待する実験に必要は作業時間は削られている。

宇宙での人体観察に重点

1990年代に戻ると、NASAは地上で大変魅力的な利用が可能となる工業用合金の研究にとって完璧な施設であると、宇宙ステーションを宣伝していた。そして、蛋白質結晶は創薬等で、さらに国立ガン研究所と共同でがん治療の新しい技術開発にも利用可能としてその利用価値を一般に向けてアピールしていた。

このような研究分野は現在では脇に追いやられている。数年後に実施されるべき重点研究テーマとしては、微小重力や宇宙放射線といった宇宙環境による人体への影響に関する研究等が挙げられている。

過去数十年間、研究者らは宇宙飛行士の骨や筋肉が宇宙では弱くなる傾向にあることを知り、睡眠も不十分であり、また免疫システムも低下することを知った。科学者らはこれらの現象に対処する方法を学ぶまでは、NASAが描く長期の有人宇宙探査は実行されない。そのためNASAはステーションでの研究課題を、宇宙飛行士を月や火星に安全に飛行させるための解決方法というテーマに移行している。

ウォルツによると、現在行っている研究内容は、標準として維持すべき作業環境の衛生モデルを利用し、これらの標準モデルに対して宇宙飛行士の健康状態をいかに維持するのかということになっている。

抜本的な研究予算削減

不幸にも、この研究方針の変更によって地上には数百億円もするような研究設備が取り残されている。そして多くの研究者、特に動物生物学と自然科学者は冷遇されている。つい先ごろ、研究の引き締めによってNASAの諮問委員会の科学委員会から多くの辞職者が出た。

NASAの宇宙ステーションプログラムの科学者のひとり、ドン・トーマスは、NASAの宇宙ステーション科学プログラムを管理統括するNASA当局は政治的論争に巻き込まれないようにしているが、予算の縮小によってこれまでの作業がスムーズにできなくなっていると述べている。プログラムに予算が削減されると、人々は心に傷を負うし、時には怒りもするのだ。

その程度予算が削減されたのか?NASA発表の数字によると、ステーションの研究及び技術開発の総予算は2005年度の390Mドルから今年は219Mドルに落ち込む。そして2007年には82Mドルまで削減されると予想されている。

NASAの16.8Bドル予算がはんとなく削減される話題が出始めたときにはステーション全体の研究を完全に中止することもまじめに検討されたこともあった。抗議が起こった後、宇宙ステーションマネージャのマイク・サフレディニにとっては中止すること無いと考えていた。そして実行していない多くのことの全体像を検討した。

宇宙ステーションは本当に必要なのか?

メリーランド大学物理学者のロバート・パーク博士によると、NASA評論家の何人かは、宇宙ステーションの科学プログラムの閉鎖はそれほど悪い考えでもないと述べている。そしてISSの研究で閉鎖されてこまるような意味のある研究など無いと、している。

パークは、長い間、宇宙ステーションに投入されている数千億円のお金を他の有効な科学プロジェクトに振り分けるべきと主張してきた。パークの意見では、人間はロボットでできる作業をするために人間を宇宙に送るべきではなく、宇宙探査や宇宙開発はロボットがもっとも有効に働く分野である証拠として、通信衛星と惑星用ローバの利用をうまく成功させることが重要としている。「ステーションでできるほとんど唯一の研究といえば無重力の人体に与える影響であって、どれほど多くの必要性があるわけではない。」とパークは述べている。

しかしながら、人間を宇宙に送り込みことに賛同しているほとんどの科学者は、ある種のステーションという施設は必要であるとの意見もある。NASAウォッチャーのキース・コーイングは、国際宇宙ステーションは完成した暁には驚くべき機能を備えた施設になるはず、と期待を込めている。そして、「人間が期待する最大の宇宙飛行物がそこにあると考えるだけでもすばらしいし、地球低軌道に火星ミッションへの可能性を増大させるきっかけとになる。」としてステーションの有効性を強調している。

宇宙に消えた研究

コーイングはステーションを基礎的な遺伝子研究にもう一度利用を検討すべきとしている。たとえば、無重力環境のなかで遺伝子がどのように変化するのかを研究したり、材料科学、結晶学などは重要で、すくなくとも何もしないほうが罪であるとして、何もしないで中止するよりはとにかくやってみるべきであると主張している。

彼がもっとも残念に感じているのは、セントリフュージと呼ばれる遠心力発生装置開発の中止である。この装置はステーションの中で様々な重力環境を再現でき、火星に人間を送り込むための準備研究として大変利用価値のあるものであった。低重力研究という意味ではハブル望遠鏡に匹敵するほどに重要な装置であったと、中止を嘆いている。

議会への報告書によると、NASAはもっと小さな装置で必要な実験は可能であると指摘しているが、コーイングによると、NASAによって棚上げにされたこの装置製造に700Mドルを費やした日本の宇宙機関JAXAに対し余計な苦痛を強いている。

セントリフュージ以外に注視の危機に面している装置はアルファ磁気スペクロメータである。これは15カ国が33Mドルを投じて開発しているのもで、宇宙反物質の兆候を探査するための装置である。7トンもの実験装置がステーションで3年間もの長期間稼動する予定であったが、スペースシャトルの打上予定の遅れにより、打上げられることは今のところ無い。

日本と欧州、科学を開始

明るい話としては、NASAは日本と欧州のために、スペースシャトルの中に軌道上研究施設を搭載できる場所を準備した。これはNASAは国際協定の下でステーションに運ぶことになっていたものである。宇宙ステーション科学研究プログラムの科学者の1人、トーマス博士によると、この動きは、NASAによってカットされてしまった実験装置で実験を予定した研究者と、欧州や日本の実験施設で類似の実験を予定していた研究者らとを連携させるためと指摘している。また、このことは研究者の職歴にも良いことだし、国際パートナーにとっても良いことである。

このようなNASAの宇宙ステーション科学プログラムの展望が、欧州と日本の科学者にとって再就職プログラムに衣替えすることができるのだろうか、或いは安堵できる場所が提供できるのだろうか?

支援を期待

NASAは現在議会で検討されている当座しのぎの1千億円規模の予算追加にほっとしている。この追加予算はコロンビア事故とハリケーンカトリーナに対するNASAの貢献に対する追加費用ということになっている。

AAAS(The American Association for the Advancement of Science)予算アナリストのコイズミ氏によると、この予算の内、どの程度の金額が研究に向けられるかは不透明な状況である。しかし少なくとも議会はNASAの財政的困窮状態は深刻であることを認識していることを示唆していることは明らかである。

さらに科学界にしてみると、NASAには優先順位が確固としてある限り、いかなる研究をするにしても困難が伴い、基本的には一定となっているNASA予算の中で全てのことを実行することは不可能である。これまで科学界がしてきたことはせいぜい手紙を書く程度で、科学を追及するための十分な予算確保を保証するよう訴えてきた。これまでのところ少なくとも議会側としてはこの訴えは実を結んできていると見ている。

トーマスは、宇宙飛行士が少なくとも3人から6人になった時点で2009年には宇宙ステーションにおける研究時間がより多く可能となると期待されている。研究時間も150時間から800時間に増える。現時点での研究時間はたったの50時間となっているとのこと。最後にトーマスは、宇宙飛行士が一旦6人になった時点では多くのことが可能となる、と期待込めて語った。