衛星産業の統廃合

The Wall Street Journal


本文は、現在話題となっている世界中の衛星産業の統合化について、ウォールストリートの専属記者が現状を報告したものである。オーストラリアの億万長者でニューズコープを率いるマードック氏の最近の動きの裏にある衛星産業界の潮流を鋭く分析している。

(要約:スペースレフ)

2001/2/9
衛星産業の統廃合:次は打上げ産業?


メディア界の中心人物であるマードック氏が、米国の衛星放送の支配を希望していることは、宇宙産業全体を通した統廃合の動きの混乱を引き起こすものとなるかもしれない。産業界関係者によると、結果として、世界中で衛星を製造し販売している企業の姿を変えてしまうことになるかもしれないと述べている。

先週、マードック氏率いるニュースコープがヒューズエレクトロニクス社とその主要事業でであるDirecTV衛星放送部門の支配権を獲得しつつあるとするニュースが明るみになるずっと以前から、衛星産業界は可能性のある他の企業との協力関係、吸収合併、買収などの会話があちらこちらで行われていた。ルクセンプルグやパリの高級オフィスからシリコンバレーのハイテク施設群まで、衛星を製造、運用、リースなどを行う多くの企業は急激に変化するビジネス環境に対応するための事業戦略を検討している。 

ボーイング社の宇宙事業運用責任者のJames Albaugh氏が語ったところによると、現時点では、世界的に見て衛星の製造能力は過剰であり、ある部分の衛星群は既に地球を周回していて利用中であるし、宇宙からのインターネットアクセスの最終的な需要には悩ましいことだが確実性が存在しない。結果として、短期的に見ればより多くの統合、特に多くの提携関係が構築せざるを得ない。そして近いうちに大規模な合併ということになると、語っていた。これは、ニュースコープ社とヒューズ社との関係がニュースになる以前のことである。

しかしながら、これまでに具体的な合併が提携がたくさん実現しているわけではない。しかしマードック氏のDirecTVとその1250万人の利用者を買収した場合、多くのドミノ現象が始まる可能性が高い。PanAmSat社長のDouglas Kahn氏は、巨大企業がさらに大きくなるのがこの産業であると、この現象を当然と受け止めいている。PanAmSatは世界最大の高軌道衛星運用企業である。

現在、PanAmSatはヒューズ社が81パーセントを所有しているが、産業筋によると、ニュースコープの統合化の動きの結果、PanAmSat社がこれに巻き込まれる最初の巨大企業になる可能性があると見ている。彼らは、PanAmSat社を2つの理由から早急に売り払うつもりであると予想している。ヒューズの買収入札に共同参加をマイクロソフト社に呼びかけた資金不足のニュースコープ社は、5千億円から7千億円の資金注入が必要である。また、マードック氏は、中継器機能を提供する衛星サービス企業として運用を行っている基本的経営を避けて通れず、付き合わなければならない。

PanAmSatも、ゼネラルモータズの関連企業であるヒューズ社もコメント避けている。しかし、この件に関して詳しい情報筋によると、21個の衛星を運用し、多方面との長期契約を取り交わしているPanAmSat社は、もしマードック氏がヒューズの買収に調印した場合、危険にさらされることになるであろうと述べている。

もっとも熱烈な興味は海外から来ている。欧州での衛星放送のパイオニアであるSES(Societe Europeenne des Satellites SA)は、米国の市場に参入するための大きなコネクションを持ち合わせていない。そしてSESはマードック氏が買収に興味を示す以前から可能性の高い協力相手としてPanAmSatを視野に入れていた。

衛星放送、衛星インターネットアクセス、画像やその他の衛星サービスの世界中の売上は今後5年間で15兆円まで達すると予想されており、これは現在見積もられている数字より5兆円多いことになる。SESはこの成長分野でのシェアを拡大するために、核となる欧州の外に拡大することを決定している。

SESの米国担当責任者であるDean Olmstead氏は、同社の戦略の中で北米の真空地帯を充足するため1社或いは複数社との関係構築を積極的に推進していきたいと最近述べている。SESはアジアとブラジルの衛星運用企業に対して大きな割合で資本の買収を行っている。同氏は具体的な議論はしなかったものの、米国での合併や買収を視野に
入れていると述べている。

PanAmSatとの計画が思惑通りに行かなかった場合、SESはロラール・スペースコミュニケーションズやGE Americom社との組み合わせの可能性も持ち出している。ロラール社社長のBernard Schwartz氏は、問題に直面しているグローバルスター衛星電話サービスに投資した結果が明らかになって以来、同社の財政的、そして企業の競争力の面でとの地位が失墜していると、昨年10月に述べている。先週、彼は同社のサービス事業を強化するための最優先課題は、世界中からの更なる提携企業や協力企業を見つけることであると述べている。同社長は詳細は否定したが、ロラールの戦略に詳しい情報筋によると、SESは、ロラールの戦略的な提携先として最も可能性のある企業の選択肢に含まれていると指摘している。

統合化への圧力によって、衛星の能力に、コンテンツ配信や高速インターネットアクセスの能力の追加を希望する傾向に影響を与えており、また、米国全土に一様にサービスを提供することも求められる傾向にある。マードック氏は、1980年代以来、統合化の風を吹かせようと試みている。過去18年間の間に少なくとも4回、このオーストラリアの億万長者は米国における直接衛星放送サービスを新たに開始するか投資することに失敗している。この分野の製造者側から見ると、世界中の衛星能力は需要に対してほぼ2倍となっている現状から、提携相手の話し合いはもっと激しい。この分野に詳しいある法律事務所の通信事業担当長は、この分野で発生する利益は極点に薄く、(経営上の)間違いを起こすだけの余裕は全く無い状況にあると指摘した。

ボーイング社は昨年ヒューズの宇宙製造部門を買収した。このことでボーイング社は衛星製造部門ではまぎれもなく世界第一位の企業となった。しかしこれに続く衛星製造企業の3或いは4社は明らかに「どんぐりの背比べ」であることは明らかである。ロラールとロッキードは衛星運用部門を合併することで話し合いを行ったが結局成功していない。ロッキード社の宇宙部門担当副社長Albert Smith氏は、衛星製造工場の数が減少しない限り、このビジネスは過剰競争の状態であり、収益性から見て疑問であると語った。(要約:スペースレフ)