NASA予算の縮小は別段新しいことではない

 グレゴリー・ベネット
  25年以上にわたって航空宇宙エンジニアリングや、マネージメントから細かい技術分析などに経験をもつ。幾つかの成功している非営利団体の設立者である。その一つがアルテミス協会である。SF作家でもある。

要旨
  今までのNASA予算増加が異常であって、今回の予算削減は当たり前のことが起こったまでである。アポロ時代は二度と来ないし、政治に訴えても何も変わらない。NASAの職員は現状を認識し、商業化を受け入れるべきである。アルテミスプロジェクトが、その良い例である。

 私が知る限りでは、現在下院で行われているNASA予算の削減要求は、数年前にゴールディン長官が計画していた筋書きの一部である。彼の計画では、NASAの予算を200年までに半分かそれい以下まで削減するというものである。そして、NASAを有人宇宙運用組織から研究開発組織に改革すると言うものであった。

 これは、私が宇宙開発における政治の役割と民間企業の役割について書いた内容に沿っている。私は、NASA予算の歴史のグラフを書き直すつもりはないが、とにかく見て見よう。

 このグラフは、国家予算に占めるNASA予算の割合である。インフレ率を反映しているし、米国経済における経済状態と政府の役割も反映している。

 このグラフから、NASA予算はアポロロケットと宇宙船を開発していた1968年がピークである。そしてアームストロングが月面に着陸した時点ではほぼ50パーセント以下に削減されている。

工学系人間ならば、このグラフから、1958年に混乱状態になり、定常状態(ゼロ成長状態)から最大に到達し、その後徐々に通常の状態に戻ってるといった安定システムとしての傾向を示す線と理解できると思う。見たところ、1980年代後半にももう一つの混乱が起こった。

これは、物理的力によってこのように変化したわけではなく、政治によってこの予算成長システムが動かされている。


最初の混乱は、もちろんスプートニクのときであった。これには、冷戦構造という背景の中で起こったことである。アイゼンハワー大統領はこの混乱状態に呼応する形でNASAを組織した。その次の大統領はアポロを発表した。しかしスプートニクは安定した通常の状態を真に混乱させるものであった。

2番目の混乱は、ブッシュ大統領の宇宙探査促進政策(イニシャティブ)であった。彼はNASAの探査プログラムに向けた新しい促進政策を試みたが、それを推し進めるだけの政治的な後押しが無かった。そして、この混乱状態は、ブッシュ大統領が去った後は直ぐに消えてしまった。

現在では、このような予算削減傾向が合理的な理由で逆転することを期待できるような政治的混乱は考えられない。また、過去30年間に行われてきた宇宙開発に関する現状改革主義と政治的なやり取りだけでは、このような逆転現象にはまったく影響を及ぼさない。事実、全ての政治活動と政治的やり取りが、国会議員によって一票でさえも変わったという明らかな証拠は見たことがない。NASAは米国連邦政府の中での役割を明確にする新しい位置を模索しているように見えるし、或いは、予算増加ゼロに向かってだんだん縮小しているのかもしれない。この時点ではっきり言うことは困難である。われわれは、国際宇宙ステーションを建設し運用するように政治的圧力がかかっている状況の真っ只中にいるので、1958年のような絶対的にゼロという状態に戻るとは考えにくい。しかし、どこまでゼロ成長まで近づくかは誰でも予想がつく。

 多くのことは、米国政府におけるNASAの新しい役割をNASA内の人々が受け入れるかどうかによる。もし、彼らが受け入れないとすると、政府が説得をもうやめたと決定するまで、NASA内の人々は、商業宇宙プログラムという上昇機運を受け止めることを放棄しつづけるながら傷を負って衰えていく獣のようになる。

NASAのウェンデル・ウェンデル博士が好んで言うように、”アポロ時代が二度とくることは無い”。

だから、NASAの職員と宇宙活動化にとって、現実を受け止めるときである。目覚める時がきたし、政治は事態を変えることが出来ないという現実を認識するときがきた。民間企業は、あなた方が行きたいところへ、より早く、より遠く、そして想像しているよりもより快適でより良いスタイルで連れて行ってくれる。

長期滞在するために月に行く時がきた。そのプログラムの名前はアルテミスプロジェクトである。