火星入植(Settlement)にビジネス投資計画が必要ではない理由
by John Strickland:米国宇宙協会ディレクターメンバー

訳:村川恭介 (変な日本語はご容赦ください。)

一部の専門家は、民間企業か政府の支援によって火星入植が行なわれる前に、入植に向けて利益を生みだす惑星間貿易ビジネスが必要であると主張している。実際にビジネスを行わないまでも、少なくとも貿易で取引可能な製品を明確にする必要があると主張している。 しかし、火星から地球に物理的な物資を大量に輸送する可能性は近未来においても見られない。なぜなら輸送コストが極めて高いからである。ジョン・ストリックランドがNational Review(雑誌)に最近の寄稿文「イーロン・マスクの火星入植計画」に対し、火星協会会長のロバート・ズブリンとまったく同じ内容を主張している。つまり、(惑星間の)物資の交易を基本としたビジネスは必要ではなく、しかも無意味だと述べている。 火星入植が完全に運用される時代に入ると、ソフトウェアのような非物質的な商品をつかった交易は可能とのことだ。ただ、さらに重要で興味深い経済状態が火星で起こるだろうと予想している。

火星への入植に必要な費用を考える上で良い事例として挙げられるのが、ギリシャとフェニキアである。紀元前600年辺りの初期ギリシャ時代は、地中海と黒海周辺エリアに勢力を拡大していた。この時代に、歴史上もっとも大規模な交易都市カルタゴが発展した。集落を形成するためには目先の利益は期待されていなかった。むしろ人口密集地域を拡大するために適した場所を探し求め、最終的に新しい都市が形成されれば交易も必要に応じて発生することを彼らは知っていた。その過程でもっとも大きなコストを必要としたのは輸送船の建造であった。 火星入植(或いは移住)を構築するために必要とされる条件の一つに、火星入植のための経済学を考える必要があるだろう。火星入植が上手く発展するためには、入植に向かう人々がなぜ火星に行くのか、その動機付けが重要であると同時に、地球と同様に経済も複雑に関係してくる。

火星入植を開始するために必要となるいくつかのステップを考えてみると、火星入植向け経済を少しでも理解できるかもしれない。火星移住に向けた動機づけと経済学は複雑に関連し合っている。火星入植のいろいろな段階で必要とされる入植者と物資の輸送を行うビジネスは、採算がとれる事業としては少なくとも部分的であろうとも成立する可能性が高い。このビジネスには、100トン以上の貨物と乗客を火星まで輸送し安全に正確に目的場所に着陸させるために、現在進行中ではあるが、信頼性が高く、低コストで再使用可能な超大型ロケットと宇宙船の建造を含む。この建造にかかる費用の一部は宇宙輸送ビジネスの利用料金などから割り当てられる。例えば、民間企業や政府がロケットと宇宙船を使用して地球低軌道(LEO)に大型貨物を輸送する場合や、地球と月の間で乗客や貨物の往還輸送するときの利用料金等である。

火星は太陽系の惑星の中で唯一、適度な重力があり、地球と比べて薄いけれども大気が存在し、気温も生命維持可能な範囲の惑星である。そのことから火星は、論理的に考えても、太陽系の中で惑星表面に人間が定住できる唯一の「場所」であると言える。 人間は火星表面や地下で生活し、機械を扱い、構造物を建造することができるので、ある程度の宇宙放射線を遮蔽することも可能である。火星に入植することが可能になれば、現在行われている火星の地質学的探査や気象の歴史研究に向けた探査も、政府であれ民間であれ、容易に連続して実行可能となる。つまり、政府は可能なかぎり火星入植を支援すべきである。

この支援は、「普通の」或いは「一般の」居住者が到着する前に輸送システム構築や初期の居住施設の開発に膨大な費用が含まれる。しかし、民間企業には革新性、効率性、柔軟性があるため、政府が行ういかなる事業よりもコストが確実に低くなる。この初期の作業はSpaceXの従業員が行うだろうし、作業終了後に彼らは火星に滞在することを希望するかもしれない。SpaceXのイーロン・マスク及び同社の頑張り屋の従業員は、誰よりも早く火星入植を開始したいという動機付けを、明確に、そして誰よりも強く持っている。彼らは、地球の人類と地球の生態系が危機に直面していることを強く認識している。従業員はゼロから入植初期の発展段階まで開発する必要があることから、火星まで無料の搭乗権が与えられるはずだ。SpaceXの火星入植事業を支援するための資金は、恐らくSpaceXの投機的事業から確保されるはずだ。この事業とは、利益確保のためのFalconロケット打上サービス事業と、地球低軌道を周回する小型通信衛星事業Starlink等である。国際宇宙ステーションへの往還サービスも加わる予定である。つまり、イーロン・マスクと彼の支援者が所有する企業から金融支援を受けている限りは、最初の火星基地と入植施設を建設するために必要となる資金確保を可能とする直接的なビジネスは存在しない。

輸送システムの設計と開発作業の大部分は地球のSpaceX社の中で行われる。カリフォルニアのホーソーンとサンペドロ、テキサスのボカチカとマクレガー、フロリダのケープカナベラルといった場所である。このような輸送システム開発は、貨物輸送のみでも早ければ2022年にテストが行われる予定である。イーロン・マスクによると、クルーと乗客が搭乗した火星旅行は現在のNASAミッションの速度が速いので、火星までの飛行時間も短縮され、結果として宇宙放射線被曝量が減少する。しかしながら、より高速で飛行するということは、火星到達時に、より多くの空気抵抗を使って減速する必要がある。また、地球帰還時にも同様に大気圏突入時に減速する場合に、より多くの空気抵抗力を必要とする。貨物輸送の場合は恐らく最小エネルギー輸送軌道を使うはずであり、より多くの貨物を運ぶことが可能となる。ほとんどの場合、火星大気のお陰で旅客用宇宙船も貨物用宇宙船も着陸前には秒速1キロメートルの割合で減速するが、そのためにはロケット逆噴射は不必要だろう。惑星間飛行から火星に直接着陸するよりは、まずは火星軌道に入り、そこから着陸するほうがより正確な場所に着陸できる。しかしながら、着陸地点からの無線信号、火星版GPS、そして軌道飛行管理技術が進歩すれば着陸精度もますます向上することになる。

Starship宇宙船と超大型ロケットの開発が予定通りに進むと想定すると、将来の火星入植に向けた物資を火星に輸送する最初のミッションは、NASAの火星ローバー2020(パーシーベランス)の後に続く火星ミッションの前に実行されることになる。火星ローバー2020に続くNASAの火星ミッションは、恐らく2026年の火星サンプルリターンミッションとなる。このミッションでは、より正確に氷の堆積場所を特定するための軌道周回レーダー衛星も投入される計画である。NASAの一部関係者によると、NASAは2015年以来、人類の火星着陸地点として大量の水氷の存在確認が最優先であると認識している。

もしSpaceXが火星軌道投入ミッション以前に物資を着陸させたとすると、正確な場所を示す地図も無ければ氷堆積の深さや組成を正確に知る機会を得ずに着陸したことになり、氷が無い場所に貨物を降ろすことになるかもしれない。地球に帰還する際のロケット燃料となる氷が必要であることから、ミッション全体が無駄になる可能性もある。現在、火星表面に近い地下にあると考えられる氷は北緯32度辺りに存在すると思われている。南半球の氷に関する情報はほとんど無い。赤道に近い着陸地点は、太陽光が多く気候も温暖である。NASAが資金援助している「Mars Human Landing Site Study:有人火星着陸場所研究」グループは、着陸場所に関する2015年会議の派生として始まった検討グループだが、2015年以来、数ヶ月ごとにネットミーティングを行っている。彼らの検討の結果、着陸場所には確実に氷が存在することが重要であるということをNASAは明確に認識することになった。

SpaceXが火星に最初の宇宙船を打上げる前に、或いは着陸を試みる以前に氷の存在が証明され、居住地開発に適した場所が特定されたと仮定すると、恐らく200トン以上の物資と付帯設備を輸送するはずだ。予定では数回にわたるStarship試験打上は2022年から2024年の間に行われる。もしSpaceXが火星に輸送する特定のハードウェア開発がそれまでにできなかったとしても、恐らく一般的な貨物、例えば食料、掘削機、そのほかの基本的な設備備品類は、2024年から2026年までに最初に着陸するクルーのために輸送されるはずだ。最初のクルーは恐らく25名程度だろう。イーロン・マスクが示唆しているように、SpaceXが宇宙船Starshipを短期間で連続して建造し続けられるなら、二回目のクルーの輸送は同じ着陸地点に十数機、あるいはそれ以上の宇宙船が同じ場所に着陸するだろう。それも千トン以上の物資と付帯設備も一緒に、ということになる。最初のクルーはStarshipの中の広い居住空間で生活することになる。ただ、着陸したそれぞれの宇宙船は、着陸時に飛散する砂による損傷を無くすために距離をおいて着陸しなければならない。

最初の火星基地を建設するために、トンネル掘削システムが使用可能になるまでクルーはStarship内の居住空間で生活することになるだろう。あるいは、地上の居住施設がしばらく使用されるだろうが、この場合はクルー達は不必要な銀河宇宙放射線(GCR)を浴びることになる。この危険なGCRから最初のクルーをすぐに保護する簡易な方法として、深めの溝にいくつかの居住モジュールを落とし込み、上から土をかけて埋めてしまう方法が考えられる。掘削が必要な場合は、いずれ火星の氷を採掘するために必要となる掘削機を使用する。GCRは致命的ではないものの、健康には極めて悪影響を与え、時間と共に癌の危険性が増すことから、この簡単な「埋設」放射線遮蔽方法は大変有意義な方法である。ある時点では、この埋設方法が全体計画の一部になり得るかどうか答えを見出すだろう。

この居住モジュールが5個から6個連結され、少なくとも2カ所のエアロックが設けられればクルー全体が居住可能であり、土壌の中に埋設されている間は放射線は取るに足らない問題となる。クルーメンバーは放射線を浴びながら地上で農作業や建設作業を行うのに対し、居住モジュールの中ではGCR放射線の被曝量はずっと少なくなる。地上で建設作業を行うクルーは地下で過ごす時間の50パーセントから70パーセントを作業時間に費やす。一方でモジュールの維持管理作業を行うクルーはほとんどの時間を地下で過ごす。地上作業のクルーは平均して一日0.72ミリシーベルトの放射線を浴びることになる。地下作業クルーのGCR被曝量は平均して一日約0.25ミリシーベルト、或いは1時間当たり0.01ミリシーベルトとなる。この初期段階で被曝する放射線量は地球上で換算すると1年で約88ミリシーベルトを被曝することになる。参考までに米国の基準では職業として放射線を浴びる人の許容量は1年間で100ミリシーベルトとなっている。火星表面で作業をする建設作業クルーは被爆量を低減するために胴回りに「水ジャケット」をまとう。重機の座席の上は放射線シールドで覆われているだろうけど、特に大型重機に座って操作する場合は胴回りは被爆量低減対策は必要である。トンネル掘削作業が始まると地上で作業する人員は少なくなるが、それでも氷採掘、エネルギー工場、燃料生産工場や、他の重要なインフラを建設し、維持管理、そして操作といった地上作業が必要となる。いずれにしても、地上作業はますます少なくなる。

火星表面に近い表層はレゴリスと呼ばれるルーズな砂と岩の層で、場所によっては、過去の隕石の衝突で部分的には深さも数キロメートルに及ぶこともある。水が氷る以前に、古代の地下水の流れによって風化した鉱物がレゴリスを部分的に強固に結合している場所が多くみられる。溶岩流を伴っている、より新しい時代の場所では、しっかりとした玄武岩の岩床を表しているが、この種の場所周辺では氷の鉱床を見つける確率は低くなる。(しかしながら、氷の鉱床にあまりに近い場所に居住施設を建設すると、氷が解けた時のダメージが大きいので好ましくないだろう。)このような意味から、トンネル掘削システムは緩い岩盤と堆積層、及び硬い岩石層に対応できる必要がある。加えて、トンネル空間を作り、内張りをして高気密空間を作ることも可能である。トンネル空間の合理的な掘削方法というのは、主トンネル及び真横に直角方向に脇トンネルを掘る方法であろう。この繰り返しで主トンネルを掘り進みながら脇トンネルを掘ることで継続的にトンネルを掘り進むことが可能である。全ての掘削は標準的な火星の空気圧の中で行われる。この空気は人間の生理学的には真空ではある。加圧された居住エリアから地下のトンネル掘進機にアクセスするためには地下のエアロックが必要となる。いくつかの大きさの異なるトンネル掘進機が、交通用トンネル、歩行者用トンネル、複数階の居住用トンネル等を掘ることになる。

火星居住者全員が適切な技能を持つ必要がある。全員が何らかの重要な仕事をこなさなければならない。垂直方向に掘られる立坑(たてこう)は、トンネル掘削で発生する土砂を取り除くために必要である。脇トンネルは内張されて加圧され、地上との間にエアロックが接合される。トンネル掘削の地上からの深さは、必要に応じて浅かったり深かったり、或いは多層レベルに掘ったりする。トンネルの直径にもよるが複数階になる生活空間を建設することも必要である。掘削土砂を排出するために作られた立坑はらせん状階段用の吹抜けに使われる。立坑は地表面の「火星キューポラ:小屋のような建物」につながっている。キューポラの窓は張り出した厚い屋根で覆われていて、屋外に出ることなく、放射線を浴びること無しに地表の作業状態を確認することができる。同じ方法で、十分に放射線遮蔽ができる屋根と、突き出たシールド層を伴った窓を組み込んだ平屋建て、あるいは複数階の観察小屋をあちらこちらに建設する。この小屋はトンネル網と直接行き来することが出来る。このような手法は少なからず掘削の全体量を削減することにつながる。そして、掘削した土砂は放射線遮蔽に使える。

完璧に整備された加圧居住エリアがある程度の規模に達すると、多くの生命維持装置と物資の備蓄、そしてエネルギー生産と食料生産といった基本的な生活インフラが整備された時点で、地球から入植者が到着してくる。一般の入植者は火星輸送システムに搭乗するために数百万ドル(数億円)支払うはずである。彼らは恐らく自身の専門の仕事の他に居住施設を拡張する仕事をシェアするだろう。火星入植者の動機づけの一つは成長するコミュニティの一部になれることである。このコミュニティでは入植者は地域の成長に直接参加できる。(米国と欧州の一部の人々や政府レベルの人々の中には、成長に反対する人々もいる。大家族には息苦しさを感じ、建物を楽しみ創造的であることに喜びを感じる人々である。)このような入植者は新世界のフロンティアとなり、開拓者精神が体の中に満ち溢れている。

入植者は適切な技能を必要とし、全員がいろいろな種類の重要な仕事をこなす。もし火星の表面で働く火星ボランティア活動のため、あるいは入植施設の拡張作業のために宇宙船搭乗費用を自ら支払うのであれば、彼らは火星ではほぼ確実に大きな(自家用車とか)移動手段を手に入れるか、毎日地上で作業する場合や、よりリスキーな環境で仕事をするときには毎日レンタルする移動手段を割引料金で手に入れることできる。逆に、入植者の中に大金持ちの入植者で居住施設拡張作業に参加を希望しない場合は、より高いレートで移動手段を利用することになる。彼らは地下の宿泊施設の賃料も支払うことになる。他の入植者は、居住施設の維持管理やその他の地球で行っているような仕事を担当する。居住施設拡張作業には、作業に責任を負う企業や火星政府から賃金が支払われる。同時に維持管理作業にはサービス料や税金という形で入植者に賃金が支払われる。

地下に広がる居住施設の面積と容量は着実に増加する。加圧気密構造に大変効果的なエアロジェル断熱材を使用する空間を基本とし、植物栽培エリアの一部は地上になる。地上か地下にするかの判断はいろいろな要因で決めることになるが、しかしながら、エアロジェルを使用する断熱技術は完成はしていないが今も改良されている。地表面下のエリアの拡大に要する主なコストはトンネル掘削であるが、他方、地上農場建設に必要なコストの中心は巨大で断熱され、加圧気密式の構造体建設である。一人当たりに必要な食料育成エリアの面積は大抵の人が認識している面積よりずっと広い。植物維持管理、農作物収穫、将来の動物の管理などの作業には極めて沢山の作業者を必要とする。地上での一人の作業時間はGCR被曝量のために制限される。地表面下の育成部屋は短期収穫物には有利であり、異なるレベルの成長表面毎の育成部屋にはそれぞれ適切な照明装置が設置され、個別に入室することができる。大規模な地上構造物の実現可能性と費用対効果も高いことが証明されれば、面積は制限されるものの大規模に発展する可能性がある。そして「パラテラフォーミング:Paraterraforming」と呼ばれる施設が拡大する。このパラテラフォーミング施設内は呼吸が可能な空気で加圧される。構造物に働く重力で空気の圧力がバランスを保つので施設は安定する。この施設の安全性は非常に高く減圧の事故が発生しても十分対応できる。しかし、このような構造物は宇宙放射線を遮蔽する能力は極めて低い。つまり、居住施設の大部分は今のところ地下に作ることが正しい考え方と言える理由である。

この居住施設建設の説明から考えられるのは、建設に必要な様々な仕事と技術を必要とすることである。もちろん、一部の重要な部分は高度に自動化された方法で建設が進む。工場で事前に生産された部材を現場で組みあわせる方法も採用されるだろう。また、収穫作業も自動化されるだろう。しかしながら、すべての機械の維持管理と修理は、技術と知識を持った技術者が行う必要がある。私たちの技術の大部分はすでに「ブラックボックス」修理に分類され、修理するには特別に訓練を受けた技術者しか対応できないことがほとんどである。例えば家庭の洗濯機やドライヤを自分で修理しようと挑戦したときのことを考えてほしい。ほとんどが素人では修理不可能である。

通常の入植者グループが26ヶ月ごとに定期的に火星に到着する頃には、多くの種類の仕事がすぐに準備されるだろう。逆に、各自が持つべき必要な能力や技術の種類も少なくなる。熟練を必要とする作業時間に対する支払いをするために、前もって経済システムが必要だとしても、社会的、そして政治的な要求のもとで恐らく徐々に発展することは明らかである。それぞれの技能レベルと、その技能の価値は異なる。例えば医学のような技能は違う支払いレートとなるだろう。いくつかのサービスは入植者向けのトータルサービスの一部になるかもしれない。或いは、より標準的な貨幣交換システムの一部となるかもしれない。入植者が地球で使用しているいろいろな通貨に代わって「火星ドル」を使うことも可能である。ある時点では、オリジナルの初期SpaceXのクルーメンバーに対しコミュニティーメンバーから労働サービス対価を支払うか、またはローカルな自治体が支払うかもしれない。あるいはSpaceXや他の企業に関係するデベロッパーが彼らを雇用し、新しい場所に開発前線基地を設営し入植施設を建設するかもしれない。場合によってはデベロッパーが地球へ帰還するための費用を支払うことも有り得る。

入植者らは科学と鉱物資源探査を継続的に支援する。その支援作業にはNASA、或いは火星コミュニティーから資金が提供される。最も優先順位が高い作業の一つが、極地の土壌コアと大昔の氷コアを抜き取るドリルの自動システムの開発である。このシステムが開発されると、火星入植者が火星のテラフォーミングを開始し極地全体の氷が解ける前に、極地や他のエリアの氷の層について地質学的記録を蓄積できる。宇宙服を着たまま氷コアのボーリング作業は非常に危険で困難な作業である。そのため、装置類は作業者が宇宙服にダメージを与えないようにデザインされるべきである。科学探査専用の基地はボーリング作業をサポートするために南極と北極に設営されるかもしれない。

ある時点では、火星入植者の規模が拡大して発展し、全体を統治することに興味を持つ地球のどこかの政府が表れるかもしれない。入植者たちはSpaceXによって初めに適切に設定された規則にのっとってあるレベルまで統治されていることだろう。もちろん入植者の承認を得てからのことだが。入植地の中には米国以外の国によって開拓されているかもしれないし、多国籍で開拓する入植地もあるだろう。例えば鉄鉱石採鉱場所が入植地の間で取引が行われるだろうから、通貨価値は早い段階で明確に定義される必要がある。 プレートテクトニクスがほとんど無い火星で、現在一般的に想定しているように、地球の地殻より鉱物の集積(コンセントレーション)がずっと少ない場合、入植者同士で対立や紛争を起こしかねない。もし入植地が低地から始まった場合、テラフォーミングが始まると、このエリアは最後にはゆっくり水没することになる。そうなると、低地の入植地はいずれある時点で高い場所に移動できるようにあらかじめ設計されるべきである。さもないと、他の入植地との間で紛争が起きることになる。

以上のような変化や相互作用はすべて経済的理由の結果である。明らかなことは、火星入植地間の交易や通商は、惑星外のいかなる交易よりもはるかに重要である。なぜなら、この交易は娯楽やデータ処理のようなソフトウェアや情報の交易ではないからである。