月に定住する他の理由

テッド・ヘムヒル

要旨

月面探査を行う理由として、軍事や宇宙旅行、資源探査等の理由が言われるが、
もっと、高尚な理由もあるのではないかと問い掛けている。
生物がなぜ地球に発生したかは様々な理由があるが、人間の種を、無限の宇宙空間に放出するという壮大な目的を達成するためには、月面は理想的な環境である。

  もし、我々が有人宇宙飛行や月面定住等に対する一般からの支持を得ようと考えたいるならば、少なくともそれらには気品が必要で、軍事、科学、宇宙の商業利用や旅行産業等以外の目的がそれに該当する。しかし、これらについて真剣に検討されたことは無い。これらの核となる考えは、宇宙空間に我々の生命体を拡大したいという願望を実現しようと努力することである。これらの願望は、我々の全体的な生命システムを助長し、保護し、拡大するための責任を理解することから浮かび上がってくる。そして、未来の生命への期待、生命を宇宙へ運ぶことへの長きにわたる個人的な興味への認識などからも浮かび上がってくる。

 生命の拡散の意味するところは、単純な単細胞という”タネ”を宇宙に放出することから、我々の銀河系の全ての惑星に生命を育むことまでと、大変広い範囲を指す。全ての惑星とは、生命の存在を可能とし、我々が到達できた銀河の全ての惑星である。
 地球の月は、これらの生命のタネを宇宙へ放出するために必要な装置を構築するためには理想的な場所である。というのも、未開拓のオープンスペースが膨大に残っているし、太陽エネルギーは無尽蔵にあるし、鉱物資源もあるし、また重力も少なく大気も無い。打ち上げ施設の建設と運用に必要な月面技術の開発を支援するための恒常的な月面定住施設は、純粋な科学研究活動にも利用されるし、火星居住の研究や、他の太陽系や地球近傍の星へのミッションにも利用される。

地球生命体起源の発想は、遠い宇宙から飛来したというゲルヴィン(1871年)によって発表され細菌性胚種(パンスペルミア)から始まり、フォン・ヘルムホルツ(1874年)による、隕石によって生命が運ばれてきたという説や、アルヘニウス(1907年)が唱えた、生命が存在した惑星が爆発して宇宙空間に放出され、その一部が地球に到達したという説等がある。宇宙で発生した細菌性の生命体、あるいは宇宙で再生した生命体が彗星によって拡散した可能性については、ハーレーやウィクラマシンゲ等によって強く提唱された。知的生命体によって種が放出されたという説は、意図的細菌性胚種広布と呼ばれるが、クリックとオーゲル(1973年)によって提案された。我々は、こらの説を拡大して、最適条件の進化過程に沿って最も望ましい生命体に直接進化するようにその種が設計されているという可能性も含むことにする。本文では、全ての知的生命体は、意図的胚種広布によって種の拡散を試みる強引な理由を作り上げることを示そうとするものである。
 

我々は、生命のメカニズムに関してより深く学ぼうとするとき、地球上の生命は地球外で設計された種から発生したという確信できる証拠を発見するかもしれない。我々は、銀河系近傍における文明によって実践された意図的細菌性胚種からの信号は受信可能だし、そのような信号は地球外の知的生命体の存在を裏付ける最初の信頼のおける証拠を提供してくれることとして期待できる。

最初の銀河間輸送システムは銀河近傍の星が形成される領域に向かって単細胞有機体の”種”を放出するかもしれない。我々は個々の到達目標を明確に出来ないかもしれないので、どの惑星にその種が着陸しようとも生命を育むことが出来るように、種をデザインする必要があるかもしれない。幾つかの種は、既に生命体が進化し、そこでは食べられてしまうかもしれない。また、ある種は、生命を維持するには過酷すぎるような不毛の惑星に着陸するかもしれない。大部分は、惑星に着陸しないか、星に落ちるて焼失するかもしれない。ほんの僅かな種だけが地球のような惑星に着陸するかもしれない。その惑星は、形成させたばかりか、生命が変質するのに適しているか、生命が進化するための準備が整っている状態かもしれない。


種は動力の無い小さなカプセルに封じ込められなければならず、宇宙空間を飛行する間、放射線からは保護される必要があり、惑星の大気に突入するときに、熱から保護されるべきだし、最終的に快適な環境の惑星に着陸した時点でうまく放出される必要がある。カプセルは、光速に近い速度で、真空の中で巨大な電磁加速装置から大量に打ち上げられる。カプセルシステムは、我々の現在の技術で可能な限りの短期間で、最大限移植可能な惑星に、最大限の遺伝子情報を伝えるよう設計される。生命の進化の足固めをし、惑星に増殖する最初の種は、未来の新参者に対抗し、自らの進化の方向を決定することが出来る。

我々は、人間居住地は太陽系に閉じ込められているという事実を受け入れることが出来るだろうか?物理的、工学的、そして生物学的な限度から見て、我々のようなほんの僅かな知的生命体による壮大なスケールの恒星間移住は困難なように思われる。我々の夢のような装置、例えばワープドライバー、ワームホールコネクション、もう一つの宇宙、UFO等は、恒星間の旅行を可能にすると考えられているが、直ぐに実現するとは考えにくい。一方、他の銀河系に種を移植するに必要な技術は、科学的研究と工学的改革を通して現実的に表現され、仕様が決定され、現実に製造可能である。


我々が生命の進化を手引きする責任があることを受け入れ、その未来は無制限であるという信念を持っているように振舞えば、新しい宇宙の真中の新しい惑星に住むことが出来る。我々は、地球が今後数億年も我々の母なる惑星として存在して欲しいと希望する。我々は、我々自身に取って代わる人類種を新たに作り出すかも知れない。そして、われわれの精神的ビジョンを、最後まで耐えうるような精神の姿で描くかもしれない。もし、我々が、個々の生きた魂の中に明らかに存在する、精神と肉体との間の結合を信じるならば、われわらは、物理的な世界を通して、復活のための道筋を詳しく書き印すであろう。そして科学的探査によって自身の秘密を見つけ出すかもしれない。我々は、あたかもより完全な世界で、より完全な形で戻ってくることを期待しているかのように、自身の一生を生きる。そして何度も同じことを繰り返し、結果的に期待した結果を得るかもしれない。