宇宙探査と民間事業

マイク・グリフィンNASA長官
(本コメントは現NASA長官が昨年末に書いたものである。日本の宇宙開発は宇宙産業化、民間事業促進化でしか発展する道しか残っていないにもかかわらず、方向性を明確に示すことができない。これは日本が資本主義経済に歴史が浅いことが起因していると思われる。資本主義も哲学であり、考え方である。考え方は文化に依存している。文化はすぐには変わらないということである。

 しかしながら、米国でさえも宇宙の商業化は一向に進展していない。むしろ後退しており、、軍民含めて国家予算頼りである。しかもロケットと衛星分野ではロシア及び中国の商業事業低価格化路線が拡大する中で、世界的独占を好む米国ビジネススタイルは危機的状況である。ボーイングは、商業衛星及びロケット打上げサービスから撤退すると断言している状態である。

 ただし、一方で純粋の民間宇宙開発活動も活発で、ロケット、衛星、宇宙旅行、宇宙ホテル等の分野では、税金に頼らない民間宇宙事業が開花する兆しも見えてきており、そういった意味では産官連携といった中途半端な概念からさらに進んで、これまで培ってきた技術が純民間主導宇宙開発に応用され、本当の意味での宇宙ビジネスへと離陸しようとしている。この離陸が成功すると、グローバルマーケットを獲得することは明らかで、コンピュータと同様に、他のいかなる国もせいぜい協力企業か営業端末の機能しか果たせないであろう。

 このような時代にグリフィン長官就任を米国宇宙コミュニティは歓迎している。オキーフ元NASA長官によって財務管理が改善され、新生NASAによる新規宇宙探査、火星有人探査に向かう。また、米国宇宙開発の従来からの主題であった商業化も、ゴールディン長官時代とは異なる考え方で進むと思われる。なぜなら、このコメントにあるように、グリフィン長官の商業化シナリオは、シンプルで明確、かつ具体的である。ゴールディン長官は概念的情緒的で商業化を見ていた。現ブッシュ政権の政治姿勢が変わらなければ、しばらくはグリフィン長官の力の見せ所ということである。今後もグリフィン長官のコメントを追ってゆく。
世界で最も成功した国の経済は、資本主義の理論と実践に基づいている。市場の力、自由貿易、多くの個々人による多様な自己判断の集合がより大きな富の長期的成長をもたらすとい考えを包含している。そしその富は中央政府が計画する計画経済よりもより大きな成長をもたらすという考えにも帰着する。いかなる国も、自由市場の視点からみて、米国と同様にこの点では同じである。

それが宇宙となると話は別であり、このことは驚くべきである。これまでの半世紀の間、鉄道、自動車あるいは航空産業が成長した状態と、同様の期間に宇宙産業がどれだけ発展したかを比較した場合、宇宙分野でも同じように十分に成長すると信じることは大変難しい。

この理由としてはいろいろ考えられるが、とにかく米国宇宙産業は他の要因以上に冷戦体制に端を発していることである。宇宙システムの性能保証レベルがあまりにも重要であると判断されたので、気まぐれな市場に依存することは出来ないと考えられた。新しく出現した考え方に従来の慣行を押し付けるシステムが慣習となっていることと組み合わされたとき、宇宙産業の発展が、何ゆえに自由市場よりもむしろ兵器製造所のように発達したのか、その説明に多くの関心を持っている。ある意味では、我々は完全に合理的なパラダイムの中でわなに掛けられている。

アメリカ政府を通して仕事をするアメリカ人は、軍民両方の重要な仕事を行っている。そしてその仕事とは、宇宙システムと宇宙サービス分野がもっとも力が発揮できる分野である。

通常、他の経済分野では、このような状況でもっとも優先されるべきことはシステムやサービスを提供している民間企業を探すことである。しかし宇宙関連の製品やサービスの必要性が生じたときにそのような商品やサービスを提供している企業が存在していなかったために、政府が自ら作り上げるか、或いは、特定の契約企業が特定の政府機関だけのために製造したものを利用するしかなかった。この特定の契約企業とは、有り余る多くの個人消費者のために製品やサービスを提供しているのではなく、単一の購入者(政府機関)の希望に答えることで競争に勝ち抜いてきた企業である。

このような状況では、産業規模は単一の買い手の購入規模によって決定されるし、新規調達企業から重要な製品やサービスを購入するリスクに対してかなりに抵抗感がある。この抵抗感によって、新規調達競争企業が出現することができないように事実上制限することになり、そのことで新規事業者が生まれてこないという、悪循環が完成されてしまうことになる。

しかしこれまでの悪循環によって回収不可能な負債を生み出した。未来の決断を見識あるものするために必要とされる範囲においてのみ、このような悪循環となるこの手法を取り入れるべきである。

もし宇宙関連の製品やサービスの市場が、経済学で使用される言葉の「技術的」な意味で機能不全であるならば、宇宙産業はアメリカの歴史の中で機能不全であったたった一つの事例という訳ではない。他にもこのような例はたくさんある。

政治に詳しい経済学者は、次のような視点では意見が一致している。つまり資本主義者による政府(これを政治経済学と呼ぶ)の唯一の目的は、適切な行動を通して市場の失敗を解決することにある。

1月14日にジョージ・W.ブッシュ米国大統領によって発表された宇宙探査イニシャチブの到来で、新しいパラダイム、つまり市場経済主導の宇宙経済を促進し、利益を生む分野に改造することは可能である。

それではこのような商業活動を目的とした宇宙探査プログラムとは一体どのようなものなのだろうか。そして、どのようにすれば達成できるのであろうか。

政府予算が商業宇宙事業の発展を促進するために使用されるという考え方はとくに目新しいものでもない。確かに、宇宙飛行のある部分では政府の関与は完全になくし、民間セクターに最大限の産業機会を提供すべきであるという議論も一部では確かにある。

宇宙輸送は他にも比して鍵となるのでしばしば議論の対象となるが、原理は他の多くの製品にも適用可能である。議論には心をそそる部分もあるが、ほとんど多くの場合、結局非実用的な議論となる。といのも、政府高官は知名度が高く信頼の高い宇宙関連民間企業の欠如に責任が無いことから、多分に価値ある努力を自ら抱え込んで自分でやろうとする。

真の民間商業宇宙セクターを発展させるためには、規模の大小に関わらず政府にとって価値があり、長期間継続的に提供され、たとえその提供が停止しても困らないような製品やサービスを明確にする必要がある。でもこれは難しい注文である。

しかし、提案された宇宙探査イニシアチブの状況としては、我々には、問題を改めて検討する機会が与えられている。我々はいかなる場所へ急いで行くこともなく、また、我々が正しい方向に沿って計画する場合、政府と市場の間の相互の利益の前向きなフィードバック循環を確立し、真の商業宇宙基盤構築するための機会が沢山存在する。

恐らく、商業宇宙事業の最初の「製品」を認識することはそれほど難しくない。たとえ「余分なものが無い」化学燃料使用のエアブレーキを使用した火星探査でさえも低軌道周回軌道(LEO)に500トン程の物資を打ち上げる必要がある。この重量は国際宇宙ステーションとほぼ同じである。この物資の80パーセントは推進燃料である。乗組員と物資を分割するか、段階的に火星打上げごとに搭載するか、また、事前に火星に物資を輸送するかどうかは重要なことではない。とにかく大量の質量を依然として必要とし、その大部分は推進燃料であることに違いはない。

既存の枠組み中で、月探査の再開とか、火星探査の開始とか、いかなる宇宙探査の場合も、とにかく液体酸素と液体水素という燃料タンクをLEOに運ばなければならないし、あるいは宇宙探査に出発する準備が出来るまでに、宇宙空間のどこかに設置されるであろう集積場所に燃料を貯蔵する必要がある。

しかし、恐らく、別のアプローチもあるかもしれない。液体酸素と液体水素はもちろん水の組成成分であり、液体の状態で最も容易に貯蔵することができる。急ぐのでなければ、太陽エネルギーを使ってその水を分解し、利用できる段階になって推進燃料に使用することが出来る。また、我々がもう一度原子力ロケットを開発した時でも液体水素は依然として推進材料の選択肢の一つになる。したがって今後数十年は、地球月間の空間で最も価値のある物質は水であり、それも数千トンの量の水が必要と思われる。

貿易とは、安く手に入れるところで購入し、高く売れるところでで販売する、そのプロセスと定義することが出来る。この定義に従えば、地球月間の宇宙空間に設定された集積場所や中継場所に燃料用水を輸送する事業は、商業的事業のきっかけとしては最適な「促進剤、弾み」となる。

米国政府は、長期プログラムとして、水の年間最大購入量を設定し、シャトルの外部燃料タンクのようなインターフェースが標準化された貯蔵タンクに水を補給するような調達契約を民間企業と締結することも可能である。

水の価格は既存の打上げ事業者が本質的な営業損失を負わずに要求を満たすことを可能にするに十分低くあるべきだし、既存企業或いは新興企業であろうと、宇宙輸送事業で効率の良いアプローチで事業を行う以上は巨大な利益を生む出すために十分に高価格であるべきである。

例えば、1ポンド当たり2,000ドルの価格で所定の年にLEOに輸送された最初の数100万ポンドの水を購入することに合意するといった具合である。これにより、打上げサービス企業に20億ドルの市場が保証され、事業者に無期限に事業を提供可能であるが、ただしこれは現在のシステムが本質的によりコスト効率の良いシステムが提供できる場合のみの話である。

この構想でゆくと、政府によって選択される企業に勝者、敗者は存在しない。能力のいかんに関わらずいかなる輸送システム事業者に参加の資格が与えられるし、要求される製品を備えたいかなる企業にも支払いが行われる。最も効率的にサービスを提供する企業は、株主にとってもアメリカ人にとっても結局は勝利者になる。政府は信頼度を評価することに関与する必要はないし、或いは宇宙飛行に対応する多種多様な打上げシステムの適格性評価に関わる必要も無い。つまりは、全ての支払いはLEOへの輸送に対してのみ行われる。

民間事業者は、政府が求める条件にぴったりはまる技術よりも、より信頼できるシステム開発にはるかにより多くの興味を持つ。時間とともに、成功するサービス事業者は、より価値の高い物資を運ぶ事業者として選ばれようとするために、よいサービス提供を積み重ねるように努力する。

このような方法で、我々は、真に商業宇宙輸送事業が発展させる手法を手にしている。そのような筋書きは一本で成り立っているのではなく、多くの枝が広がっているが、その一例を考えてみよう。

例えば、ある中継場所や集積場所に貯蔵されている水を酸素と水素に分解して液化し、過度にロスのない長期間貯蔵をするために、ある種の基本的な技術基盤が必要である。

この考え方に沿えば、このような運用の詳細にまで政府が関与する理由はどこにあるのだろうか疑問になってくる。年間のロスが許容以下の中継場所貯蔵施設の燃料を適正な価格で買わない理由はどこにもない。

繰り返すが、このような事業はこの事業を促進しようと決めた会社にとっては非常に重要な製造業市場を創出してくれる。このような必然的な事業にも、必ずそれ相応の電力を必要とする。電力も必需品の一つであり、さまざまな場所で供給できるし、場合によっては技術的に実証されれば、他の場所にビームで電気エネルギーとして送信できるかもしれない。

「電力」は、ある場所で燃料電池として消費されるべく、酸素と水素の状態で必要な場所に送られる。ここで概略を述べた筋書きでは、あるLEO輸送事業者は、自律ランデブオペレーションが必要とされるある中継ノードに直接水を輸送しないと判断するかもしれない。というのもこのような中継基地では複雑な操作が要求され、少なくともドッキングや燃料転送といった多少複雑な操作が最低でも必要となる。

ある企業は、部品などをLEOから他の場所に移動する専門企業として成長するかもしれない。このような需要によって民間宇宙軌道タグ(曳航)サービス事業に発展するかもしれない。これ以外にも特殊事業サービスは発展する余地がある。

企業は価値連鎖の中に存在する隙間を埋めることで発展する。そして製品やサービスをお互いに売買し、供給プロセスの端から端までの間で可能な限り最大限の効率化を進めようと努力する。

このように事業が発展する中で、NASAは宇宙探査に必要な特別なシステム開発に集中できるし、同時に基本的なインフラやサービスを提供する民間企業に依存することもできるようになる。

こういうことが我々が宇宙開発で本当に希望している将来像ではないのか。ここで概説したシナリオを現実的にするためには具体的に深く検討すべき詳細事項がたくさんあることは明らかである。我々は進むことができるかもしれないが、このコメントの読者は、はるかに素晴らしく想像力豊かで現実性のある計画やシナリオを作りだせることは疑いの予知も無い。もちろん、このことは市場原理のすばらしさと力強さそのものである。

地球低軌道(LEO)を超えてその外にわれわれが進出し長期滞在しようとするときに必然的に必要となる物を購入するという、比較的単純な決断を政府が始めることですべてが開始される。