NASA、ゴールディン長官とのインタビュー

(編集者要旨:ゴールディン長官が進めてきた政策について、あまり表に出てこない内容が見えてくる。宇宙ステーションの予算超過の原因、Tito氏の打上げ、一部のハードウェア中止の真相、宇宙ステーション商業化の本当の意味、今後のNASAの方針、ステーションの将来等を述べている。)


  

  Dan・Goldin、NASA長官として最も長期間在籍した人物。彼は、NASAの歴史の中で最も激しく変化する中で長官としての職務に就きながら、9年間を過ごしてきた。プログラム管理の彼の哲学であった「Better, Faster, Cheaper」という方向転換を指揮する中で、59歳のゴールディンは、NASAを年間1個か2個の衛星を打上げる政府機関から、年間多くの衛星を打上げる組織へと変革してきた。同時に、彼は1千億円もの歳出削減やおよそ三分の一の購買力という年間予算削減の年にもNASAを引っ張ってきた。
彼は、1997年のマースパスファインダーやハッブル宇宙天文台の軌道上補修といった大胆なプロジェクトも指揮してきた。同時に、国際宇宙ステーションのコスト超過や1999年の火星ミッションの立て続けの失敗にも遭遇した。

  NASA長官として3人の大統領に仕えた唯一の人物となったゴールディンは、ちまたでは彼の任期もこれで終わると思われている。しかしながら、彼曰く、NASAを退任した後の生活を考える暇もないぐらい忙しいと語っている。
インタビューで、「将来私がどうなるかは全く分からない。」と述べている。
このインタビューは、NASA本部でスペースニュース記者ブライアン・バーガーが行った。


問:3月6日に、あなたは最も長くNASA長官に在籍したことになり、4月1日に9年間の在職を祝い、そして今年60歳になる。今のお気持ちは?

答:私は体の調子も良いし、水泳もやるし、運動もしている。信じられないほど大変忙しいスケジュールをこなしている。自分が60歳なんて信じられないんだ。遊び場で走り回る小さな子供のように感じている。絶対に年は取らないものであると考えていたことを思い出している。午後には熱いシャワーを浴び、海岸でランニングをし、永久に死ぬことは無いと思っているのかもしれない。そして今もそう考えている。

問:長官としての9年間を振り返って、最も誇りに感じる実績はどれか?

答:ハッブル宇宙天文台を修理したことだ。

問:それでは最も残念に感じていることは?

答:火星にいけなかったことだ。

問:あなたは、(STS-98の)ジム・ウェザービー コマンダが「流れるようなシャトルの打上・・・」と表現したミッションを目にした後、(ケネディからNASA本部に)たった今戻られて間もない状態ですが・・・・・

答:(目の前のコーヒーテーブルをたたきながら)私は縁起を担ぐ人間なんだ。わかるこのシャツ? STS-98のシャツなんだ。私はミッションの前からこのシャツを着てるんだよ。ミッションの間中、ミッションのシャツを着ることができるとは思えないからね。

打上の3分前になるとブロンクスハット(ブロンクス帽子)をかぶるんだ。私にはやるべきことがたくさんあるし、自分だけですべてがうまくいくとは思っていない。大変なプログラムで、問題も発生するかもしれない。

宇宙ステーションの高度まで達するために、たった5分間の打上可能時間(launch window)が与えられている。私がNASAに着任したとき、5分は愚か、1時間30分以内でシャトルを打上げることにも問題があった。ある議会関係者は我々にはそれができることに懐疑的であった。私は彼らに5分間の打上可能時間を実現する計画であることを確約した。これには私は大いに自慢できることである。この作業担当チームの人間はこれを成し遂げた。我々は、ほとんどの打上を5分間の打上可能時間以内で行うだけではなく、発射時限が開始され時点で打上げることもできる。

John Youngは打上可能時間を2分半にしようとしていて、そうなるともし問題が発生しても東海岸に着陸することも出来る。われわれは今2分半の打上可能時間にするよう検討している。USA(United Space Alliance)はよくやっていると思っているし、民営化もうまく進んでいると考えている。とにかく、NASAとUSAの間に、信じられないようなすばらしいチームワークが出来ている。

私は、企業文化の中から来ており、もし安全で高品質の作業を行えば、コストとスケジュールは不変ではなくなり、改善前進すると考えている。

問:宇宙ステーションの組立は順調に来ており、表面的にはあなたはプログラムが全て順調に進んでいると受け止めているように見える。しかし、NASAは表面化した4千億円のコスト超過問題に取り組んでいるが、みんなが驚いている。なぜこのようなことが起こったのか?

答:全く分からないし、私も驚いている。宇宙ステーションのプログラムマネージャであるTommy Hollowayは大変優秀な人物である。Tommyがしてきたことは大変分別のある内容であった。

彼とRothenberg(Joseph Rothenberg:NASA associate adminstrator for space flight)は予算をいつも注視してきた。彼らは、2年間の運用経験もある。我々はステーションにおける主な目標を完遂しており、今日まで運用活動費をはじき出すのに同じモデルを使ってきている。Tommyは現物(配分予算)を手に入れ、その現物でプロジェクトを前進させ、数年間のステーションの運用経験をとにかくこなしてみようと言った。このことに私は別に驚くべきことではないと考えている。むしろ実際にやったことは素晴らしいことであると感じている。運用上の問題を先送りし、事が大きくなるような次の年まで待って何ら行動を起こさないよりは、彼らは警報を鳴らしてきた。

問:宇宙ステーションプログラムマネージャはいつの時点で予算問題を見つけたのか?

答:彼らは昨年秋の時点では実際の数字は知らなかった。しかし12月あたりで彼らは数字を見せられた。我々は新政権と作業を進めてきたし、問題を先送りするよりも、迅速な行動を起こした。そしてTommyもJoeも、そして有人宇宙飛行チーム全員が予算の浪費を回避するためのプログラムを明確にした。困難で難しい問題を我々はやっているが、私自身は楽観的に見ており、NASAの責任を全うする予定だし、頑強な宇宙ステーションプログラムを手にしているし、予算内でやっていく。

問:資金を節約するために米国のステーションハードウェアを削減するというアイディアは誰が考えたのですか? NASAですか、ホワイトハウスの行政予算管理局(OMB)ですか?

答:知らないんだ。私が知っているのは、NASAのチームとOMBのチームが議論をしていたということだけだ。NASAは立派な政府機関であり完全にオープンである。確かなのは、NASAは審議に参加したということだ。私はOMBが一方的で懲罰的な行動を取ったとは考えていない。私は最終的な行動に敬意を払っている。その決断や取った行動は大変良かったと思う。OMBの連中と話してみるといいが、私は大部分のところはNASAからの提案を基本にしたアイディアであると受け止めている。我々NASAは(今回の措置は)いいことであると感じている。

問:つまり、解決策に賛成ということか?

答:全くその通りだ。そして我々は既に動き出している。RothenbergはRoy Estes[Acting director of NASA’s Johnson Space Center]と共に仕事をしてきている。そして毎日大きく前進している。

我々が直面していることは大変すばらしいものであると思っている。とにかく、Tommyがやったことは大変すばらしく、慎重な見積もりをしてきた。彼は、時間的に緊急度の高いシャトルで使ってきた慎重な手法でやろうと言ってきた。つまり、NASAジョンソン宇宙センターの職員という意味では24/7(一日24時間、年中無休)と呼んでいる体制を取っている。現在、ステーションに関して分かっていることは、シャトルほど時間的に厳しくもないし、地球に帰還するときに即急な決断を下すことも無い。だから、我々はステーションに関しては通常の勤務時間体制で丁度よいと、今は言っている。

問:24時間運用体制とは対照的にということか?

答:一週間24時間で、少なくとも全て予備(バックアップ)の人員は配備しておく。つまり、やることといえば、ステーションの状況を安全にして、そして次の朝にクルーが来るまで待ち、そして仕事を開始する。つまり、これが我々が大変賢いと考えてやっていることの一つである。

問:このように変更するこによって、表面化した予算超過の問題を解消しようと期待しているのか?

答:もちろんそうだ。そして我々はこれまでに取り組んできた全ての装置に目を向けている。そしてさらなる出来事は、職員が散らばってしまったためにあまりにも層が薄くなってしまったことである。我々は不十分な人員と資金で多すぎることをやり過ぎていた。

そのことから、もし我々の優先的な作業内容を見れば、現在、推進モジュールは優先的作業ではないことがわかる。すでにわれわれは米国が管理するモーメンタム・ジャイロスコープをステーションに搭載しているために、燃料消費量は大変少なくなっている。そして、ステーションの軌道を上昇させる方法として、ロシアがステーション(のロシア部分)で持っている(上昇)機能の予備として、スペースシャトルを軌道上昇に使用することを実証してきている。

欧州の自動輸送機(Automated Transfer Vehicle:ATV)もいずれやってくる。そして我々としてはそれに頼ろうとしており、燃料補給も可能となる。つまり、「エネルギーを無駄にしている。推進モジュールの作業を中止しよう!」と我々は言っている。

居住モジュールに関しては、我々は今後3年から4年間は居住モジュールは必要ない。我々は重要な時期、重要な段階に資金を使うべきときに、なんで居住モジュール開発に取り組む必要があるのか?

最後に、クルー緊急避難宇宙船(Crew Rescue Vehicle:CRV)について言えば、我々はX-38プログラムを持っているし、デザインをさらに洗練するために数年間の時間が許されている。だから我々は、X-38の設計が精錬されるまでCRVへの作業をやめようと言っている。ただ、今話しているのは、2千5百億円相当の作業の一時中止についてである。

そしてこれ以外の問題としては、NASA全体には、有人宇宙活動に関わってこなかったが大変優秀な人材がいたことである。だから、ジョンソン宇宙センターの職員層はまばらに散らばってしまった。例えば、X-38では、NASAのドライデンには世界でも優秀な大気圏飛行試験の専門家がいる。ドライデンには可能な人材がいた。ジョンソンではなぜ職員が散らばってしまったのか? 我々は多くの仕事を受け入れ、そして取りやめてしまった。

ホワイトハウスが指摘した点は、「技術的なリスクを解決し、作業を進める前にコストを完全に理解しているか確認せよ!」というものであった。これらのことを実行することで、よりよいプログラムを遂行すると私は思う。私は、予算内でステーションは実現可能と確信している。

問:居住モジュールとCRVの中止で、NASAは宇宙ステーションの能力を減少させてはいませんか?

答:我々はこれらを永久にキャンセルするつもりはない。ただ一時的に棚上げにしておくだけである。そして、我々は、輸送スケジュールの検討段階から実効段階に移さなけらばならない。採決はまだされていない。5月1日までに結論が知らされると思う。有人宇宙飛行プログラムに関わった人々は国家に貢献したし、プログラムにも貢献し、政府とともに取り掛かる時間を我々に与えてくれた初期の警鐘を鳴らしてくれた。そしてきちんとした計画を明確にしてくれた。

問:NASAはスペースステーションの予算超過分を補うために、他のプログラムから資金を転用するつもりなのか?

答:私は、OMBと政府に対し、感謝したい。彼らは私も同意ができる規則を決めてしてくれた。問題解決のために有人宇宙飛行プログラム以外のいかなるところからも資金が来ることはない。宇宙科学、地球科学、航空宇宙技術は、ステーション問題に関係して予算が削減されることは無い。というのも彼らも過去に同じような問題に遭遇した経験があるからだ。

唯一あるとすれば、もし彼らが抱えているNASA技術者が利用可能ならば、有人プログラムを支援するために人員を回してくれると思う。有人宇宙飛行予算内でスペースステーション問題を解決するために、彼らは柔軟な対応を我々に示してくれた。

われわれは回りを見回して言った言葉は、「本当にやるべきことは、優先順位付けだ」ということがわかったんだ。より先端的分野で仕事が出来ないと、職員としての経験や職歴としてあまり良くないとみんな感じていたので、最も優秀な職員の何人かは、「おい、私のキャリアはこの先端技術のために仕事をすることで、ステーションやシャトル等の中で仕事をすることではないんだ!」と、考えていた。だから今では我々は再度優先順位付けを検討したんだ。つまり、有人宇宙飛行部署でこの2件の仕事を完了することで、プログラムの将来に大きく貢献することになると彼らに言っている。だから、ステーションを終わらせ、シャトルの運用をもっと効率よく行うことで、一致協力してこれらの作業を徐々に縮小していっている。

問:航空宇宙技術事業部(エンタープライズ)が250人から500人の技術者を宇宙ステーションプログラムに廻したとき、1年間でこの事業部が出来た作業量に影響が出なかったのか?

答:彼らの予算はカットされない。予算はプログラムを作り直して利用され、契約企業や大学に利用される。予算には番号(Code)がある訳ではない。仕事はうまく行われる。

問:あなたは、宇宙打上事業プログラム(Space Launch Initiative:SLI)が国際宇宙ステーションに必要なNASAの輸送システムを満足させることを期待しているのですか?

答:私はまだ提案内容について概要が伝えられていないし、4月末まで発表されないだろう。我々は広く開かれた入札プロセスを取ってきた。我々は企業家精神にあふれた会社や主要企業を活気付かせたし、彼らが持っているものがはっきりするまで続ける。

問:ということはあなたの意図としてはX-38を推し進めるが、クルー緊急避難宇宙船(CRV)の予算を徐々に減らし、最後には中止するということか?

答:我々が自信を持つとき、CRVの技術的リスクを退治できる。リスク削減をしながら常備軍を連れて行く代わりに、我々はリスク削減を最初に取り組む。

問:頭数という意味での職員の人件費が、ステーションの予算超過の大部分なのか?

答:そうではない。われわれはステーションプログラム全体の原価会計をいうものを持っていない。全く持っていない。我々はこれまでプログラムに関して政府職員のコストをプログラムの費用に含めたこともない。

問:ステーションプログラムの予算超過の原因となったものをいくつか挙げるとしたら何か?

答:それは物資補給(logistics cost)コスト、インテグレーションコスト、そしてソフトウェア維持管理だ。それはものすごい額だ。それは我々が予想したものよりもっとすごい額だ。おそらくアメリカ中がソフトウェアについて興味ある教訓を学んでいると思う。みんな貢献者ではあるが。

問:それでは、あなたはステーションの運用で2年間の経験をしているが、将来の宇宙ステーションの運用にかかるコストをうまく対処していることにどの程度満足しているのか?

答:2年間は丁度いい数字である。我々は来年も再来年も追跡管制を続けるし、継続してこの数字をアップデートしていくつもりだ。

問:あなたは、NASAが運用予算予測を上方修正する必要があると予想しているのか?

答:いや、わからない。個人的には、この2年はそれなりにいい数字だと思っている。今後コストが下がるとも思えないが、初期運用コストは、後半の運用コストよりも高くなるのは当然だ。

問:しかし、後になると面倒を見なければならない更に大規模なステーションになるのではないか?

答:そのことは折込済みと考えている。私が言えることは、我々は早めの警報を発する体制があったし、先を予想したし、われわれはそれがわかった。そして行動を起こしたし、全体コストの予想についてある程度の苦悩を味わっている。

問:ステーションの開発コストを低減する必要性によって、NASAに民間資金の導入を開放するという新たな動機付けにはなっていないか?

答:みんな、民間による運用の可能性について話し合っている。もし現金を投資したい人で、夢想家ではなく、連邦政府から利益をむさぼろうと考え、それを商業化と呼んでいる人々でない場合、いつでも我々は歓迎している。もし政府だけが除外されて、宇宙の商業化ができるというのは幻想である。

今のところ、宇宙ステーションの30パーセントを商業利用に割当てているが、政府資金をむさぼることを期待し、これを商業化と呼んでいる人々をわれわらは望んでいない。我々は真のお金、現実的な提案、そして実行する能力を兼ね備えている人を求めている。というのも最後にはこれらの人々が生き延びるようにする責任があるし、数兆円の宇宙での資産に責任を負っている。もし再設計の話をしたいならば私は1993年に我々は既に提示している。もし本当の資金、本当の計画、そして利益を生み出すための本当の提案には、大いに歓迎する。

問:ロシアの資金難はDennis Tito氏を打上げたい理由の一つである。現状ではNASAもお金が必要なのでは?

答:これに関しては一定の線引きをしよう。宇宙ステーションは2兆5千億円から2兆5千億円($24-25 billion)の投資である。5人のDennis Tito氏が必要なはずであり、資金難の問題解決にはならない。私が言っているのは本当のお金を持ってくる人々のことを言っているんだ。

我々は一ドルに対して3セントで宇宙ステーションを引き渡すわけにはいかない。現時点では、ロシア経済にとっては20億円($20 million)は大きな影響があるかもしれないが米国経済にとってはそれほどではない。我々はステーションへの投資家を一人受け入れている。それは100億円を投資したドリームタイム(Dreamtime)である。

現在、言っているのは、我々は米国研究モジュールに設置されている商業利用エックス線結晶分析装置への60億円の投資家を探している。それができる人を待っている。このような人が商業的にやってもらいたいことが沢山あるが、我々が本格的に取り掛かると、夢想家や、本当の商業活動の代わりに、維持管理を行おうとする古いタイプの提案が出てくる。

このようなことは我々にとって意味のないことである。私は議会において、30パーセントの真の商業化促進を、宣誓とともに宣言した。もしビジネスをしようとする企業があって、仮に地球上で失敗しても、それは問題がない。しかし、もし(ステーションで)ビジネスを開始し、彼らの事業に期待し、2年から3年経って失敗でもしたら、NASAはお荷物を抱えることになる。そしてもしそれらがステーションの屋台骨に大きな影響を与え、彼らがNASAに引渡しを拒んだら、人命が危険にさらされることになる。

これが、私が言っている、民間投資家は考えをもつだけではなく、強靭な資金的後ろ盾がなくてはならない理由である。そして、民間投資家は我々を信頼させ、事業遂行に積極的で、やろうとしていることを実行するような人々でなくてはならない。もしこの条件を満足できるならば、私がいつも公言しているように、民間ベンチャー企業にステーションの鍵を渡したい。

本当の利益(payoff)はステーションでの研究活動の商業化にある。それこそが利益が生まれることろである。

問:ということは、あなたは観光ビジネスにはNASAとして視野にほとんど入れていないというこですね。ロシアはやろうとしているが。

答:余談だが、主権国家というものがある。我々は評価検討手続き、(宇宙旅行のための)訓練の手順、そして運用手続き等で合意している内容である限りは何ら反対するものではない。建設中のホテルに宿泊する旅行者はいますか? 我々は運用に進展速度を注視する必要がある。そしてロシアもこのことで検討していると思っている。

運用速度がそれほど速くなく、宇宙旅行者が打上げられるのに適した時期というものは必ず訪れるときが来る。しかし、ものすごく運用のテンポが速い時期は、発生する作業や活動はものすごく多く、十分訓練を受けていない旅行者の手を取って案内する時間など全く無い。我々はエネルギーを与えてくれる人を必要としているのであって、ただそこの居るだけの旅行者は必要としていない。

いつかは旅行者が搭乗できる時期が来ると思う。しかし、覚えておいてほしいのは、コストが適正でなければいけない。例えば、シャトルの打上費用は高額である。たとえば、ここに、私は10億円、12億円、或いは20億円を打上げに準備したといっている人がいるとしよう。打上げるためのお金を持っているというだけで、リーズナブルと思う? 正しい価格だと思いますか?

問:Tito氏はこの春に打上げられると思うか?

答:わからない。

問:ということは、この件で言いたいことが沢山あるということか?

答:そういう意味ではない。一般的に信じられていることとは反対に、NASAには1万8千人の職員がおり、数千のプロジェクトを抱えている。私は権限を委ねている。私のスタッフであるJoe Rothenbergと、ロシアとの調整を行っているチームに委ねた。私の唯一の条件は、評価検討手続きで合意し、訓練手続きで合意し、運用手続きで合意した上でステーションに飛行する旅行者に向けた商業計画を提案するということだけである。

このような条件が合意されたと私が言う場合は、米国とロシア間だけではなく全てのパートナとの合意が成立した場合のことを意味している。規格を作成し、その規格が承認された場合、疑問点は消える。さらに我々は訓練を何処で行うべきか決める必要がある。どのような代償が関係してくるのか。恐らく、ある人はソユーズで打上げられ、シャトルで帰還するかもしれない。或いはもしソユーズで打上げられてもソユーズで帰還する場合、ヒューストンで訓練する必要があるかもしれない。ソユーズのためだけの訓練では済まない。ステーションで必要な活動に向けた訓練も必要としている。

問:どのような構成要素が宇宙打上事業(Space Launch Initiative)を成功に導くのか?

答:2005年前後には、航空構造、推進、知能的宇宙機、健康モニタリングと管理、宇宙飛行士の安全、完全な燃料タンクと構造等のありとあらゆる分野で高い信頼性を獲得すると思う。リスクを激減させ、現在よりも10倍も安全な宇宙機を手にし、現在のコストの10分の一で100倍もの宇宙飛行士の安全を確保する等で、実際的な前進をすることが出来る。

問:しかし、どうやって前進するのですか? 根本的な前提として宇宙機は大部分が政府資金で開発されるのではないですか?

答:はっきりさせないと、ぎゃ―ぎゃ―(ga-ga land)やかましくなってしまう。ときとして宇宙予備軍はこのやかましい中で議論する。往々にして、何かをしたいと願望(desire)することと、したいと希望(want)することは違う。(政府による)下支えは、商業市場をだめにしてきている。

宇宙打上事業は、技術的そして資金的リスクを大きく低減し、商業打上げサービスを提供することを好機と捉える商業セクターがいるその場所に商業市場が復活するときに、大きく成功すると考えている。

これは願望であるが必要なことではない。私はこんなことは起こり得ないと考えている。私は2005年までに民間商業セクタに関してはほとんど変化しないだろうから、政府がもしプログラムの前進を促進するならば、コスト、スケジュール、そして期待している成果を明確にできると期待している。

問:NASAは、政府や議会に対して、政府資金による宇宙機開発を明らかにし始める時期ではないのですか?

答:我々は頭の中で描けるようになるまで多くを語るべきではない。何かを起こしたいと希望することと、本当にそれが出来るということとは違っている。我々は教訓を学んできた。5年程前に行った実験的なプログラムの中で、産業界は我々に言ったんだ。これが商業的活動ではないかと。つまり企業はNASAと共同研究契約を締結し、NASAの外に出てしまい、そして我々が全ての責任を負い、企業は何かを打上げるために契約上の最終結果だけを我々にくれる。

我々はこのようなことはこれ以上したくない。我々は「インチストーン(少しずつの目標)」と呼ぶ概念を立ち上げた。もし何かが打ち上がるとしても5年間も待つつもりはない。プログラムを半年やり、一年やり、もし、インチストーンを達成していない場合は方向を修正する。最終地点に到達するまで待つつもりはない。

問:X-33を中止し、宇宙打上事業を始めることによってNASAは更にシャトルのアップグレードの方向に決める時期では?

答:私はそれを認める準備が出来ていない。我々は宇宙打上事業(Space Launch Initiative)を進めるつもりだし、必要とあらば方向の手直しをするつもりだし、民間セクターが開発している技術を取り入れ、進むべき方向をいつでも見ている。

問:同時に、NASAはシャトルへの投資が過大になることを避けようとしているのか?

答:このスペースシャトルに関する質問は政策的な問題ではない。我々は可能な限りステーションを安全に保つために必要なことには全てのことに投資をするつもりである。人々を楽しませるために必要な資金を確保するためにシャトルを飛行させるつもりはない。私の仕事の大部分は知識であり、宇宙飛行士の命に対する私の責任感である。シャトルをもっと安全に、さらに安全に保つことに努力する。これが使命である。

より良い宇宙機が出てきたり、よりよい宇宙機が具体的に可能と判断できるときに初めて、我々はそれに投資を開始する。しかし、これは政治的な問題ではないし、財政的な問題でもない。これは、シャトルに乗り込む宇宙飛行士の家族の目を見て、この機械が絶対安全なんだと語りかけることはアメリカの責務である。安全になり、そして何かできることがあるならば、それを実行する責任がある。

問:我々はNASAがシャトルの安全と支援活動のための資金を支出することは理解している。しかしNASAはより大型の宇宙機や、飛行して戻ってくる(フライバックブースター)液体燃料タンクの開発といった効率優先の開発を抑制する予定はあるのか?

答:宇宙打上事業(SLI)のすばらしいところは、もし米国企業が次世代宇宙ロケットを開発するのに、シャトルと競い合うことを選択したなら、応募することができることだ。

現時点では、フライバックブースタの開発を進めることは公平であるとは考えていない。我々には公平な土俵が必要であり、偏った土俵ではない。個人的には、本当に公平な土俵を望んでいるRohrabacherという国会議員もいると考えている。

NASAは本当に公平な土俵であるべきと強く感じている。言ってみれば、「おい、シャトルのフライバックブースタを作るために5千億円或いは1兆円がここにあるよ。」と言いながら、SLIを進める。こんな状態は、公平な土俵とは言えない。

問:スペースステーションは、あなたの監督下で、いくつかの改造を行っている最中である。この変更の中で科学分野はどのようになるのか?

答:意味のある科学分野を抱えていると思う。例えば、基礎科学を研究するための設備がステーションに備わっている。この分野は1993年時点では無かった。3〜4年前に登場した分野だ。ステーションの建設の遅れから逆に幸運をつかんでいる。研究設備の製造に関わっていた研究者の中にはイライラした人もいた。

1993年に思いついた実験設備を作っていたら、今後我々が手にするであろう健全なステーションにはならないと思う。事実、バイオインフォマティクス(生物情報科学)や遺伝学の分野ではここ2〜3年ですばらしい発展を遂げている。我々は(ステーション建設の)遅れによって様々なことに遭遇しているが、ちょっとだけ振り返る機会が与えられ、研究施設で出来る内容をもう一回見直してみようではないかと言っている。結果としてもっと良い研究施設を手に入れるかもしれない。

建設の遅れで、ある程度の失望感があるのは確かだし、NASAが動かなかったことへの失望感もある。しかし、これからの5年間の研究の豊かさは、より良くなる要素であると思う。

問:最近、私はある研究者と話す機会があり、彼が言うにはステーションでのクルーの作業時間が減少することに対してさほど気にしておらず、というのも与えられたクルーの作業時間はさほど多くなく、そのために、当初与えられていたクルーの作業時間がもっと少なくても対応できるように実験装置を設計しなおしたと言っていた。他の研究者が3人のクルーでは公平ではないとも思われるが。研究者らは6人か3人のどちらのクルーの人数に対応させた実験装置を完成させるべきなのか?

答:いい質問だ。最初に言わせてもらいたいのは、その答えは5月まで待ってほしい。我々は6人か7人のクルーメンバ構成をあきらめたわけではない。どのようにして人数を確保するか方法はあると思う。率直に言わせてもらうと、この質問をしたのはあなたが初めてだ。私は良く考えずに物事を言いたくはない。大変興味のある質問だし、折に触れてNASAの職員に検討するよう言っておくような質問だ。

問:6人から7人のクルーの能力を達成するための考えがあるならばそれは何か? 更に多くのロシアのソユーズの利用も含まれるのか?

答:いろいろ考えがある。

問:それは何ですか?

答:そのうち教える。

問:つまり、今の時点では大事にしまっておくということか?

答:単にそれらがうまくいくかどうか判らないという理由だけだ。本質的に話すべきことがあり、誤った期待感を抱かないようになるまで我々はべらぺらしゃべるべきではないと思っている。

問:あなたに近い人物が言うには、あなたはGeroge・Abbeyを最も高く評価していた。彼にジョンソン宇宙センター局長を去るように進言するのは大変辛かったと思うが?

答:最初に言わなければならないのは、彼は私が長官に就任した日から知っている。Georgeは私がNASAに来る以前からこの(ステーション)プログラムに大きく貢献していたし、私がNASAに居る間もそうであった。彼はこのプログラムを愛していた。彼はこのプログラムを傷つけるようなことは何もしていない。

彼らは、米国大統領から責任が与えられているときに、やるべきことがある。そして後任を決めなければならない組織改正もあるが、要はGeorgeの進む方向にあとどのくらいの滑走路があるかだ。彼は68か69歳だ。そしてプログラムは過渡期に来ていた。

時には新しい視点を持ち込むことは有効である。常に民間セクターではやっていることだ。もしこれが民間企業ならば、話題にもならなかったであろう。変化の時期がきただけということだ。

Georgeの可能性については大変興味を持っている。彼は世界旅行が好きで、ひときわ英国が好きである。彼は、ウェールズとスコットランドの血を引き継いでいる。彼と私は、英国をステーションプログラムに引き入れることをよく議論したものだ。ということで、ジョンソンにはいろいろ可能性はある。いい潮時であった。正しいことをやった。Georgeに関しては消極的な声は無かった。ジョンソンの新しい管理の時代がきたということだ。

問:あなたは、かつてご自分が最高の年代にいると感じている発言している。NASAから産業界、或いは学術界へ転進しようと考えているのか、或いは現在があなたの最高の業績と考えているのか?

答:この仕事とは、つまり、今朝は事務所まで妻が運転してくれて、こう話していたんだ、「信じられないよ、考える時間も無いんだ」。 この種の仕事は世話人になることも許されない。常に何かに集中していなければならないほど、つねに速いテンポで動いている。私の将来がどうなるのかなど、考える暇も無い。将来について考えるチャンスも無かった。スキーに行った時だけ考えたような気がする。欧州へ2週間ほどスキー旅行に行くつもりだったが、1週間でワシントンに戻らなければならなかった。半分は電話に出ていなければならなかったし、ワシントンに電話で返事をしていた。自分自身のことを考える時間なんて無かった。

問:つまり、あなたは、ポストNASA長官が議論される段階がくるまで、(今後のことを)後回しにしてきたといった感じなのか?

答:その通りだ。そうなったときに、2〜3ヶ月仕事を休み、どこかに行って、今後どうするか考えて、何かを決める。何がしたいのか、全然考えが無いんだ。

問:本を書くつもりは?

答:可能だと思う。しかし、曝露本(kiss or tell book)なんかは書くとは思えないし。何か頭の中には考えがある。ただ、それに集中するかどうかはわからない。あるいは財力基盤がしっかりしているハイテック企業から出発するかもしれないし。これについては考えがあった。おそらく、問題のある企業を立て直すかもしれないし。わからない。

問:ジョンソン宇宙センターは、宇宙ステーションプログラムを終了させることに集中するために、遠い宇宙の開拓事業活動から後退していると考えることに、あなたは苦しみを感じるか?

答:ある意味では、そのことはいいことだと思う。我々全員が、沢山過ぎることができると思い違いをしていたと思う。今我々は宇宙へもっと早く到達できるようになってきていると思う。これはある種の矛盾(パラドックス)だ。長期研究活動からある程度後退することで、我々のステーションやシャトルに対する作業能力がより強まってきている。我々は以前よりもよりよく、より迅速に作業をこなすだろうし、また、NASAはやろうとしていることが実現できるんだという信頼感を、アメリカ国民に築くつもりである。

我々はどうやって優先順位を付けるか、どうやって予算内で生き抜いていくか、常にやかましいほどにシグナルを送っている。我々は物乞いに戻るつもりはない。最も優秀な人間を確保し、NASAの優先順位の最も高い2つのプロジェクトに彼らを割当てる。

ここ2〜3年で、我々は大きな信頼を勝ち取り、そして宇宙のフロンティアの扉を開ける段階に達すると考えている。時として後退するときに人間はものすごい力と勢いを作り出す。火星ミッションの鍵は、NASAがやろうと言っていることが出来るという一般からの信頼を得られるかどうかにかかっている。つまり、火星に行こうと決断して、期間も決めたときに、一般の人々は我々を信じると思う。

問:ステーションに関して、予定していたよりもより低いレベルで終了するかもしれないことから、ステーションプログラムはある意味で失敗しているという見方に対して、あなたはどのように反論するのか?

答:そう見ている人達の予測以下になることはない。この宇宙ステーションはとにかくすばらしいものである。我々は宇宙ステーションの持っている可能性以下のことをやるつもりはない。宇宙ステーションは、やろうとしていることをやる。我々は国立保健研究所とも話をしており、我々がステーションでやろうとしていることに大変興味を持ってくれている。