コックスレポートについて
宇宙政策ダイジェスト(ヒューストンクロニクル):コラムニスト フランク・ジッツエン
  ワシントンを中心に活動するジャーナリスト。宇宙輸送、国家安全保証と宇宙、商業宇宙関連を専門。ミリタリ・スペース編集者、スペースビジネスニュース編集者を経て現在、
Ad Astraの編集長)
(要約版)

 中国のスパイ活動と宇宙技術の移転に関する共和党議員クリストファー・コックスの審査会報告書のその後に関して、中国の宇宙技術への接触と衛星輸出プロセスにおける推論に基づく議論の見通しは急速に薄れてきている。製作に1年半をかけたこの衝撃的な報告書は、米国2大衛星メーカであるヒューズ・スペース・テレコミュニケーションズとロラールスペースシステム社に対して直接的に告発している。報告書では、衛星メーカ業界と米国宇宙技術保護の責任を負っている政府機関にも安全保証に対するだらしなさと徹底的な無頓着さを描いている。

 宇宙に関する輸出問題で大きく3つの問題に焦点を当てている。
(1)米国製の衛星は非米国同盟国のロケットで打ち上げられるべきか?
(2)米国宇宙技術は実質的にどの外国クライアントからの輸出許認可の段階でも制限されるべきか?
(3)ミサイル技術管理レジームを犯した国との商戦で衛星輸出が兵器であったとしたら、どのように増殖(競争)を終わらせるのか? 
つまり、政治と軍事両方に係わる問題の場合、宇宙機はいつの時点で兵器と考えられ、判断され、あるいは使用されるべきなのか?

 告発は、昨年の夏開始した。ローラバッカ議員は長征ロケットによる打上げ失敗後、中国は米国のロケットと衛星の技術を盗んだと非難した。この非難は衛星メーカのヒューズとロラールにも向けられた。両企業とも技術データを中国に提供し、結果として中国の民間宇宙技術だけではなくミサイル技術の向上に利用されたとしている。

 昨年の夏に行われた議会公聴会では、中国での打上げに責任を持つ国防総省の責任者は、そのような技術の移転は無く、単に中国の技術者の技術向上によって進歩したとして訴えに反論した。また中国弾道ミサイル技術の発展にも米国からの技術漏洩が影響しているかどうかは懐疑的であると否定的見解を出した。この告訴と否定が混在した状態から、昨年の夏の中ごろにコックス審査委員会が秘密裏に組織された。

 そんな中、国務省が、国防総省と商務省の支援を受けて、最終的には衛星輸出許認可権を国務省へ移管することに成功した。ブッシュ政権時代に商務省へ権限を移管したばかりにもかかわらずである。クリントン政権になって、民主党全国委員長であったロナルド・ブラウン氏を商務省長官に抜擢した。司法局の調査が進む中、議会の告発はブラウン氏に向けられた。ブラウン氏は自分の立場を利用して、クリントンの支持者であるロラール社社長のバーナード・シュワルツ氏と一緒に中国への衛星売り込みに参加した。シュワルツ氏はクリントンの選挙のときに数億円の献金を行っている。議会はシュワルツの会社と商務省との間で衛星輸出許可に関して取引があったと怒りをあらわにした。議会では衛星輸出許認可権限を商務省から国務省に移管する動きが湧き上がり、商務省も、輸出事務には経験と知識があるとしてその有利さを訴えたが受け入れられなかった。最終的には国務省に権限が移管された。

 衛星輸出に関する議論はの中核は10年前にさかのぼる。中国で天安門事件が発生した後、ブッシュ政権は中国への衛星輸出許可に関する政策を転換した。衛星輸出政策は1985年に中国からレーガン政権に対し、中国の長征ロケット2E型を米国衛星市場に参加させるよう要求があった時点から始まった。このロケットはヒューズ社とロラール社の大型通信衛星を静止軌道へ打ち上げる能力を持っていた。1989年に制限付きながら米国の衛星等を長征ロケットで打ち上げる合意が成立した。この合意には、ロケット市場での中国のダンピングを禁止する条項も含まれていた。これには技術の漏洩を監視するための手段も国防総省に求めた。

 天安門事件後、ブッシュ政権の中国に対する圧力を受けて、衛星の輸出は完全にブロックされ、輸出許可には大統領の承認が必要となった。しかし、天安門事件が沈静化した現在までも、この大統領による承認手続きが残って、慣例化してしまった。議会はこの点も指摘し、商取引が優先されたために重大な技術に関して十分な国家安全保証に対する配慮が欠けていたと指摘した。これらの背景で、コックス報告書作成と状況データ収集が開始された。

 しかし、議会はコックス委員会の作業終了を待てなかった。予定では1998年12月、或いは1999年1月初めの完了予定であった。議会では、1999年度ストーム・サーモンド防衛関連法が提出され、衛星輸出許可権限を国務省に取り返す法案が盛り込まれ、NATOへの輸出許可を容易にすることを条件に3月15日にこの法案は議会を通過した。そして現在に至っている。

 しかし、この報告書のデータが本当なのだろうか?中国への衛星輸出が制限されている現在、コックス報告書によっては、中国への衛星輸出が禁止されるかもしれないし、政治がどのように利用するか注視すべきである。

(編集者コメント:どうも、今回のコックスレポート問題は、米国内の政治及びクリントン後の選挙に絡んだ動きに見える。米国としては中国市場はよだれが出るほどほしいはずである。また、そう簡単にハイテク技術は盗めないとある専門化は指摘している。コックスレポートの信憑性はともかく、このまま輸出禁止になっても喜ぶのは欧州とロシア企業であろう。そのぐらいは米国もわかっているはずである。)