コラム:21世紀の宇宙プログラム
宇宙政策ダイジェスト(ヒューストンクロニクル):コラムニスト マーク・ウィッティングトン
 クリア・レイク・グループの創立者の一人。クリアレイクグループとは、宇宙政策を研究するグループ。
(全訳)


旧ソ連がスプートニクを打ち上げたニュースは、幸福でうたた寝状態のアイゼンハワー時代を目覚めさせ、冷戦真っ只中の40年前にNASAは誕生した。 NASA設立の目的は、宇宙の探査と科学的研究に国家のエネルギーを導くためであった。NASAは、米国がスプートニクの挑戦に答えるある種の手段でもあった。その後の10年間、アポロプログラム及び月への競争を行っていく間、NASAは旧ソ連との武装無き戦闘を行う軍隊となった。この戦闘で勝ち取るものは、国家が世界の宇宙での主導権を握るというものであった。

NASAができてちょうど10年を過ぎたころ、NASAはこの戦いで勝利を収めた。月面探査でソ連は踏みにじられた。

 アポロから30年後、そして冷戦勝利から10年後、NASAの目的を再検証することで機が熟したように思われる。たとえば、NASAの運用はどうあるべきか、または、NASAはそもそも存在すべきか等である。

 NASAは2つの問題に直面している。その一番目が、進行中のプログラムを維持するためのコストに対して釣り合いを取るための存在理由が不足しているということである。

 アポロ計画以後、NASAは国家の宇宙開発最前線であった。スペースシャトルを開発し、比較的低コストで物資や人間を宇宙に運ぶことに成功した。NASAは民間を宇宙へ参入させることに成功し、宇宙ステーションの建設や火星有人探査などでコスト削減に貢献した。 しかし実際は、ロケット打ち上げのコストはスペースシャトルの出現で増加した。民間の宇宙開発は遅れており、安価で民間が製造する打上げ機の開発は待たされっぱなしである。火星旅行の夢はいつのまにかしぼんでしまっている。

 次は、宇宙ステーションの到来で、NASAは宇宙での国際調整機関となってしまった。米国、欧州、日本、カナダは宇宙での科学基地の建設に資金人材をプールしている。この高圧的状況は、旧ソ連の崩壊と、クリントン政権による宇宙ステーションプログラムの全面的なパートナとしてのロシア受け入れで、ロシアとのより深い関係をもつことになると思われた。 不幸にも、”国際協調”という要請は、科学と探査のように、宇宙ステーションを建設するための世俗的な理由を飲み込み始めた。 宇宙ステーションプログラムにとって有益であるとはまったく言えないロシアとの協力は、かつて第一次大戦中にドイツ将軍がオーストリアとハンガリー国王に、”死体に鎖をはめよ”と言った状態に実際似てきている。ロシアは達成するかもしれないコスト削減は、逆にコストオーバーとなっている。

 最初のロシアの主な協力内容はサービスモジュールの打上げであった。このモジュールは宇宙ステーションに電力と再噴射能力を備えるものでるが、打上げが大幅に遅れており、いつ打上げが実行されるか誰も言えない状況である。そうであったにせよ、ロシアが署名した合意内容に従うようロシアを刺激する努力は無駄骨になっている。スペースステーションプログラムからロシアを外すという選択肢はまったく考えられておらず、単に政治的理由で生き長らえている。

NASAの2番目の問題は、主なプロジェクトをスケジュール通り、予算内で実行するシステマティックな処理能力に欠けている点である。そしてこれらのプロジェクトが完了したときには、当初期待した結果より程遠いものとなっている。スペースシャトルの場合は既にのべた。NASAの”次の当然のステップ”である宇宙ステーションは、官僚の無能さを表す更なる古典的な例である。
 宇宙ステーションは8年間で8千億円(100円/ドル)のプロジェクトとしてレーガン大統領によって最初提案された。この目的は、微小重力研究、衛星の修理基地、宇宙や地球観測そして、月や火星有人探査のための出発点といった多岐に渡る機能を一括して担うものとして期待された。

 それが、15年間で3兆円かかり、名前も3度変わり、数え切れないほどの設計変更等が行われたこの宇宙ステーションの現在は低軌道に2個の空っぽのモジュールがあるのみである。完成は6年後に延期され、ある専門家は8年かかるとも予想している。初期のステーションの目的のほとんどは捨て去られ、微小重力実験研究施設としてだけ残っている。科学研究向けの予算は、建設段階での予算超過によって共食い状態である。

ロシアの参加が事態を悪化させているが、スペースステーションを悩ましている問題は、プロジェクトのかなり初期のころまでさかのぼる。NASAは、何ができるのか過大評価してしまったし、費用は過小評価してしまった。この楽観的な評価は昔からの餌であり、おとり作戦であった。一つは、公には明らかにされたことはない二つの目的を宇宙ステーションは実行した。これらの目的とはロシアに現金を垂れ流すこととNASAの官僚主義を維持することである。これら両方の目的は、宇宙プログラムが科学や宇宙探査のためにあるという印象を持っている人々に安心感をもたらすことは無い。

明らかに何かがNASAに行われなければならない。単純に新しいリーダーシップが必要といったものではない。ブッシュ政権は1992年にゴールディン長官を指名することでリーダーリップを期待した。手に負えないほどのNASAの官僚主義とクリントン政権の支持不足が大きく影響して、ゴールディンは事態を変えることに大きく失敗した。ロボット利用の宇宙探査のみが成功した。しかしNASAの主要な部分である有人宇宙探査に関しては再構築がほとんど不可能であることが判明した。

NASAの問題をどのように明らかにするかを議論する前に、われわれは、政府資金による民間宇宙プログラムというものがあるべき姿なのかどうかから始めるべきである。NASAを単に廃止すべきという自由発言をする方法はうまくいかない。この方法は、まともに発展できないばかりでなく、うまく構成されて、順調に実行される民間宇宙プログラムを不可能にするかもしれない。

宇宙開拓は次の世紀に米国の将来の経済成長と政治パワーにとって重要であることは疑いの余地が無く、西部開拓は前世紀には同じ意味を持っていた。地球周回衛星は通信、気象観測、軍事的偵察行為などに発展した。エネルギー生産、微小重力産業、旅行産業、貨物輸送などは、今後の産業となる。これらは今後10年から20年以内に宇宙を予想した以上に変化するかもしれない。

政府の政策は、様々な方法で宇宙開拓のドアを開くことに明らかに積極的な影響を与えている。米国は、より早く、より以上に経済成長と政治力の恩恵を楽しむことができる。最初に政府は、民間企業が避けるハイリスク、ハイリターンの研究開発に投資できる。NASAの航空部門の前身であるNACAは商業利用可能な航空機を生み出すことになった多くの研究開発を行った。その結果米国の航空機産業を独占的産業にした。

 次に、政府は宇宙探査を促進できる。宇宙が経済発展の触媒的役割を担うことができる前に、十分探査されるべきであることは当然である。たとえば、どのような資源が他の惑星に存在するのか、微小重力や放射線、真空、極端な温度といった宇宙探査に影響する宇宙環境はどのようなものか、これらの宇宙の特性は宇宙開発を促進する上でそのように利用できるのか、等である。

 次に、政府は商業ロケット打ち上げサービスから宇宙電力発電所までの製品とサービス提供のある種の市場の核としての役割を担うことができる。保証されているが競争もあるという市場は、宇宙開拓や広い分野の人間の宇宙活動の窓を開けるために必要な技術の促進を助けることができる。

 最後に、政府は、政府が最善を尽くせることを行い、もともと政府がやるべきことが出来る。政府は、宇宙開拓に法の原則を持ち込むことが出来る。知的所有権の保証や民間同士の問題調停機関が出来ない限り、宇宙の民間による経済的開発は起こり得ないし、商業が発生しないだけでなく、生存そのものが不可能な悪条件の無い秩序ある環境を構築できない場合も経済的開発は起こり得ない。

 現在のNASAは、技術開発についは、不充分ではあるがいくつかは実行しているが、その他の部分は全く実行していない。NASAは宇宙の民間経済開発の実行機関となることに正面から捕らえてさえいない。宇宙に対するNASAの見通しは小さく、宇宙ステーションのような高価な施設や、高給で高度に訓練された職員の雇用などが実態である。このNASAの見通しは不明瞭な未来へと引き伸ばされる。NASAが考えるものとは異なる未来とは、西部開拓の時と似た未来、つまり全ての参加が許される状況が現実的になっている中、NASAは行くべきであり、あるいは変わるべきである。NASAのような定着した官僚主義を処分する最も効率のよい方法は、それを撤廃することである。NASAをリフォームするその他の試みとしては、何年にも渡る議論と政治的口論を繰り替えすことであろう。
 ゆえに、第一段階としては、解決不可能な難問を無くし、月にアメリカを運んだものの、それ以後宇宙開拓を妨げているNASAを撤廃することである。

  NASAの場所に、小規模の組織のグループが国家の宇宙政策を推進する目的で設立されるべきである。そしてそれぞれの組織が宇宙開拓を実行するための個別の機能を担う。このアプローチの利点は、それぞれのグループがそれぞれを組織管理し、グループが持っている単一の目的を、それぞれ適した方法で運用可能である。

 最初で、しかも最も重要な機能の一つは技術研究と技術開発である。航空宇宙国家委員会と呼ばれる組織を設立し、宇宙飛行を促進する技術の開発と試験を組織の単一目的とする。NCAが担当するプロジェクトはXロケット、新型エンジン、閉鎖系環境システム、レーザーロケットシステム、原子力や熱核融合エンジンなどである。

 次には、宇宙惑星科学研究所が設立され、ロボット探査を担当すべきである。この研究所は、大学や他のアカデミックな組織と協力関係を持ち、また、自らの利益のためにロボット宇宙ミッションを一緒に行うことを目的とした新興企業とも協力関係を持つ。

宇宙観測研究所は、ハッブル宇宙天文台のような宇宙観測施設を運用し、促進すために設立する。
 
連邦航空局は、運航管理のための政府の規制管理の機能を果たすべきである。FAAは航空機とパイロットの許認可や飛行機旅行の安全管理規制では大変経験がある。宇宙機や民間宇宙飛行士の追加はそんなに負担にならないはずである。

地球観測システム、あるいは惑星地球ミッションと呼ぶ人もいるが、この組織は海洋・大気庁に移管されるべきである。

スペースシャトルの打上げは完全に民営化されるか引退すべきである。いかなる政府系機関も自らの民間宇宙部門を管理すべきでない。政府機関は民間セクターから打上げサービスを購入すべきである。

大統領や議会から指名された特別委員会が、宇宙ステーションプログラムを取扱うために設立されるべきである。設立から90日以内に提言を発表する。ある提案によると、宇宙ステーションを国家の微小重力研究所にし、ロスアラモス、スキャンディア、ローレンス・リブモアーなどに似たように国防総省によって運用される。また別の提案によると、宇宙ステーションの構成を変更し、恒久月面基地として月軌道に配置する。

宇宙政策に関する大統領と議会にアドバイスする目的で、議会レベルの国家宇宙政策局が設立されるべきである。この組織は、前述の宇宙組織の予算策定と運用、法案と規則の作成、国家宇宙プロジェクトの立案と監督などを行う。最終的には、宇宙政策局は、米国が宇宙や他の世界で建設する基地や居住地の統治を行う。

この新しいアレンジの下での国家宇宙プロジェクトは、他のいかなる提案されている宇宙組織にも取り扱うには、範囲が広ろ過ぎ、コストがかかり過ぎ、期間が長過ぎる一つとして定義される。

宇宙政策局は有人火星探査を提案するだろうし、その実現のための予算と計画、そして、米国の軍関連、大学、政府系宇宙関連組織、そして国際パートナー等から周知を集めた組織体制を提案する。
 もし大統領と議会が承認すれば、マース・ディスカバリー・コープ(火星探査隊)が火星有人探査のために設立される。火星有人探査が行われ、火星探査隊は米国及び世界中に報告書を発行し、そして解散する。このように、NASAがアポロ以降そうなったような恒久的な官僚主義を避けることが出来る。

この考え方のアプローチはルイース・クラークモデルと呼ばれる。ルイースとクラークは、合衆国がルイジアナを購入したときに米国が新たに買収した西側地域の探査をリードした。当時のコープ・オブ・ディスカバリ(探査隊)アメリカの北西を探査して東部に帰ってきた。そしてその報告書をトーマス・ジェファーソン大統領に手渡し、そして解散した。ルイスとクラークの探検隊は国家西部開拓局などは設立しなかった。西部開拓にはかなり有利な立場にあったにもかかわらずである。

このルイス・クラーク特別グループが行う別のプロジェクトとしては、月への帰還であったり、宇宙発電所の建設のような巨大な技術実証施設等が考えられる。

次の大統領選挙と次の千年間(ミレニアム)への曲がり角にある現在は選択をするのによい機会である。宇宙開発は、過去30年間がそうであったような遅く、苦痛に満ちた、そして非効率な方法で行われるべきであろうか? 或いは、新しい宇宙探査時代や、経済成長そして、全世界や全人類を豊かにし、21世紀を太陽系を征服した世紀にするための探検を引き起こす新しいアプローチを試すべきであろうか?

われわれの選択は来るべき未来の母体となるであろう。