2014-03-27 キューブサット衛星群開発ベンチャーPlanet LabのCEOインタビュー(SpaceNews)


左からクリス・バッシュイゼン、 ウィル・マーシャル、 ロビー・シングラー(SpaceNews)

NASAのエイムズ研究センターの元エンジニアリング部長だったピート・クルパーは、政府から渡された携帯電話をポケットから取り出して彼の部下に尋ねた。衛星はなぜそれほどコストがかかり、古くなった技術ばかりを取り入れるのだろうか。自分の携帯電話は衛星よりも優れている、と嘲笑っていたものである。

当初、このコメントを聞いた部下で物理学者のクリス・バッシュイゼンとウィル・マーシャルはほとんど気にも留めなかった。でも最終的にはこのコメントがこの二人の目を覚まさせ、新しい発想に結び付いたのである。「恐らくスマホ技術は衛星を劇的にコストダウンさせ、衛星の能力も劇的に向上させるだろう。」

この発想から生まれたのがNASAプロジェクトでバッシュイゼンとマーシャルが担当したフォンサット(PhoneSat)である。この衛星はスマホと予備電池を3台のキューブサットに組み込み、2013年4月21日にオービタルサエンスのアンタレスロケットで打ち上げられた。

スマホが軌道上でも機能することが証明されるのを待たずして、バッシュイゼンとマーシャル、さらにNASAの物理学者であったロビー・シングラーが加わった3人はプラネットラブス(Planet Labs)を設立するためにNASAを後にした。この会社はサンフランシスコに本社を置き、地上で入手可能な先端民生技術を人工衛星に使用するアイディアを展開することを事業とする。

プラネットラブスは、PhoneSatを打ち上げたロケットと同じアンタレスロケットで、2013年4月21日にDove-1キューブサットを打ち上げた。その2日前の2013年4月19日にDove-2衛星をロシアのソユーズ-2.1aロケットで打ち上げた。2013年11月21日にはDove-3とDove-4をロシアのドネプルロケットで打ち上げた。これらの各ミッションは同社の基本的な事業目標を確立するために実施された。

Dove-1 Dove-2

2014年プラネットラブスは、高頻度撮影で高分解能の地球画像を提供するために、世界最大の地球観測衛星群となる28個のキューブサット衛星群を打上げた。軌道高度は400km、傾斜角52度(宇宙ステーションと同じ軌道)。

このキューブサット衛星群の最初となるFlock-1衛星群は今年2014年1月12日にオービタルサイエンス社の宇宙輸送機シグナス(Cygnus)に搭載して国際宇宙ステーションに輸送された。

Flock-1衛星は国際宇宙ステーションの日本モジュール「きぼう」に移動された。その後数日間かけて、ロボット操作の専門家である若田宇宙飛行士によってナノラックス(NanoRacks)社開発のキューブサット衛星放出用パレットに装着され、エアロックに移動した。若田宇宙飛行士が操作する日本のロボットアームでエアロックのパレットを捕捉して宇宙空間に移動し、一日で2機から4機のFlock-1衛星をパレットから放出した。放出は、2月11日に4機、2月12日に2機、13日に2機、14日に4機、15日に4機、25日に2機、26日に4機、27日に4機、28日に2機の放出であった。

これら以外に、リトアニアから2機、ペルーから1機、NanoSatisfi社、ArduSat社、Southern Stars Group LLC SkyCubeのミニ衛星も放出される。


宇宙ステーション日本モジュールきぼう内のNanoRacksキューブサット放出パレット


宇宙ステーションからFlock-1の2機が放出された瞬間


Flock-1衛星詳細


Flock-1衛星詳細

分解能:3-5メートル
ADCS(位置決定制御サブシステム):磁気計、ジャイロ、フォトダイオード
EDS(電力サブシステム):太陽電池パネル、電池(リチウム-イオン8セル、20Ah)
C&DH(コマンド&データハンドリング):シングルボードコンピュータ
RFコミュニケーション:テレメトリー VHFビーコン、双方向通信 Sバンド(2.4GHz、115kbps)

CEOのバッシュイゼンはオーストラリアのシドニー大学で博士号を取得した。以下はSpaceNewsとのインタビューである。

問)PhoneSatについて何か重要な点は?

答)出費に見合う価値という意味ではこれ以上のものは無い。これまで言われてきた、「宇宙は大変、宇宙は高額、宇宙は政府がやるもの」という考えが間違っていたことを示した。つまり、宇宙にかかわりたい全ての人々を奮い立たせたことに興奮している。

問)PhoneSatとPlanet Labsとは、どのようにつながっているのか?

答)電話はUSBポートを一つ備えているだけ。だから電話に多くの装置を簡単に接続することができない。Planet Labsが考える得意な点とは、既製品で民生品の部品を衛星に組み込む技術を見出すこと。技術的な視点で言えば、哲学的には電話のように、ということ。

問)NASAを辞めて起業した動機は?

答)ウィルと私は10年の間、宇宙がなぜ後退しているのかその理由を確認しようとしてきた。二人が2001年に会ったとき、軌道上にヒルトンホテルが飛んでいるべきだったけど、アメリカは実現しなかった。だからものすごく落胆したんだ。僕たちは国家予算を調べ直した。政府の政策も精査した。法律もよく調べた。二人ともNASAで働いている中で、宇宙開発を引き上げる技術は何か考え続けたんだ。
二人は月面着陸機コンセプトを作り上げ、それがエイムズのLADEEミッションとPhoneSat開発につながった。僕たちは繰り返すことが出来ると考えられる法則を見つけたんだ。さらに、米国の宇宙産業の現状を理解したんだよ。

その結果、低コストの衛星技術を開発し、宇宙産業に応用する技術を見つけんたんだ。宇宙産業は基盤コストは高コストという常識や、宇宙産業への参入障壁は堅牢という常識も破壊できる完璧なチャンスと思えた。

問)Planet Labsのユニークさは何?

答)能力の密度の高さ。これまでキューブサットはおもちゃのようなものとも言われていたし、実際の使用に耐えうる衛星は100kgや1000kgの質量が必要と考えられていた。だから、我々のチームには、100kgの衛星が持つ能力をキューブサットに詰め込むように指示したんだ。その結果、究極的には単位容積当たりもっとも密度が高く、もっとも能力をもった衛星が開発できた。我々がどれくらい小さな箱に詰めこることに成功するかは興味深い。現在バージョン9の衛星を開発中で、一つの箱にはもっともっと詰め込める空間がまだ残っている。

問)それぞれのバージョンの衛星には何を追加するのですか?

答)スマホと同じ。オリジナルのiPhoneはGPS機能や3G通信機能は無かった。タッチ画面の解像度も低かった。最新のiPhoneは重さも初期のものより半分、厚みも半分、処理能力もバッテリー能力も格段に向上している。私たちは衛星能力の成長という意味では、スマホやタブレットPCの一般的な技術を使っている。我々のハードウェアの新バージョンが発表するときは、(スマホと同様に)無料でアップグレードも手に入れる。宇宙で使用済みの旧式の部品を使用する代わりに、民生品のサプライチェーンに我々が入り込んでいればアップグレードも迅速にできる。

問)Dove-2衛星はまだ宇宙を飛行しているのですか?

答)そうです。Dove-2は我々の衛星としてはバージョン4になる。現在はバージョン9。Dove-2はほとんど使用していない。Dove-3のダウンリンク速度の20分の一程度と遅いので。

問)Flock-1衛星群はかなり低い高度を飛行しますが、衛星の寿命を制限するのでは?

答)我々のビジネスモデルは衛星の量産技術に依存している。寿命が10年でより複雑な衛星を開発する代わりに、より単純で寿命も短い衛星を打上げ、衛星群全体を補充するという方法を選んだ。このアプローチから得られるメリットは膨大で、第9世代の衛星寿命が尽きるまでには第10世代や第11世代の衛星を打上げる準備ができている。ユニット当たりのコストは補充分も含めても、より高い高度に衛星を投入するよりも大幅にコストを下げることが出来る。

問)衛星画像を配信できる頻度は?

答)高分解能画像で年4回の頻度で基本的な全地球地図ができる。同じ場所を飛行する頻度はもっと多いけど、雲が無く明るさも十分で高品質の画像をつなぎ合わせて全地球を年4回公表する。

問)一般に向けて公開するのか?

答)データへアクセスできるのは契約者だけです。彼らが最初のデータを入手できます。まだ広範にデータを配信する計画は有りません。

問)Flock-1の後は?

答)現在、衛星の性能アップに集中している。はっきりしているのは、現在のFlock-1衛星群の寿命が尽きるまでに、次世代の衛星を開発することが最優先。今後も宇宙ステーションから打ち上げることが可能なので、同じ軌道に、より高性能で高機能な衛星を補充する。今言えることはそんなところ。

問)他にPlanet Labsのユニークな点は?

答)技術者社員の全員が完璧に機能する衛星を机の上に置いてあること。常に高いレベルの技術に触れることが出来、この点は他のいかなる企業も不可能なことだ。また、従業員の数以上の衛星を作れる。

問)これまでに製造した衛星の数は?

答)おそらく完成、未完成を含めれば60機以上かな。

問)従業員数は何人?

答)だいたい40人ほど。

問)宇宙に対する興味を引き付けたのは何?

答)母親の記憶では、私はずっと昔から宇宙に興味を抱いていた。頭からずっと宇宙が離れなかった。生活のいかなる時でも宇宙に到達することで頭が一杯だった。

問)それがアメリカに来た理由なのか?

答)まったくその通り。同じ考えの情熱的な人々に会える場所はここ以外には無い。シリコンバレーは、いずれかの特別な分野で世界を変えたいと望む人々がたくさん住んでいる。また、宇宙関連で何かをしたいと希望する人々も多く住んでいる。この状態は私にとって極めて魅力的だ。